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恋の女神様による異世界恋愛日記

作者: 咲月ねむと

 今から紹介する恋の物語は、私こと女神クピドがある世界に顕現した際、目にした出来事を書き残した物。


 その世界に住む生物〈人間〉は、魔法と呼ばれる特殊な能力すら行使できず、文明のレベルだけ発達したと言っても過言ではない。


 私自身色々な世界の人間やその他種族を見てきたけど、ここまで無力な人間を見たのは初めてかもしれない。だけど、力がないからこそ、陸を走る鉄の馬や空飛ぶ鉄の鳥を作って、少しでも楽に生活をできるように工夫する。


 それが無力な生物ゆえの足掻き……いや、自分たちの生活に工夫をしているだけかな? その答えは、女神の私でもわからない。


 そうね、余談はここまでにしてそろそろ本題に入ろうと思うのだけど、準備はいいかしら?


 今回の主役は、私ではなくあくまで二人の少年少女。


 そんな二人の共通点を探したのだけど、育った環境は真逆、性格に関しても類似する点は一切なし、容姿に関してもだけど……少年は顔立ちも整っているし、何より茶髪が似合っている――俗に言うイケメンってやつ?


 だけど、少女のほうは、すべてが普通。眼鏡をかけ、大人しく少し地味な女の子。


 こんな真逆の二人が、お互いに惹かれ合っていくんだもの。運命って呼ばれるものは、本当に不思議よね。


 まあ、私も力添えしたから当然なんだけど。


 じゃあ、話はここまでね。


 あ、そうだ! 忘れてた! 私は阿久津(あくつ)カレンって名前で登場するから、きちんと、覚えて置くように。


 では、語りましょう。


 二人が愛という絆で結ばれた記念すべき日のことを。



 ここは、地球という惑星。


 舞台はその地球に存在する日本と言う島国の中にある高校という教育機関。


 私がこの世界に顕現したのは、一年も前のこと。


 最初は人間としての生活の仕方、常識などがわからなかったが、今はほとんどマスターしている。


 それはそうでしょ。何だって女神だもの。


――っで、今は朝の七時半。高校に向かっている時間帯であり、実際今その最中になる。


「なぜ、私がこんな格好を……?」


 このように私が一人で呟いている理由……それは、この制服って呼ばれる堅苦しい着衣に不満を持っているからだ。


 動き辛いし、熱いし、いい点なんてまったくない。


 おまけに今日はかなりの猛暑。


 清々しいほどの青空には雲一つなく、そのせいで太陽の光が直に身体に当たるため辛いのなんの。


「はぁ~、暑いなぁ~」


 そう一人でまた呟いていると、背後から声をかけられた。


「カレンちゃんおはよう」


 声をかけてきたのは、伊藤(いとう)美姫(みき)という名の女子高生。


 この子こそがこの物語の主役の一人。普段から真面目で大人しく、眼鏡をかけた少し地味な女の子。


 私がこの子と仲のいい理由、それはすべて記憶の改ざんによるもの。


 この世界に顕現した際、自分の過ごしやすい環境に整えなくては、何かと不便に陥ることがある。


 だからこそ、この美姫ちゃんの記憶を改ざんし、今は幼少期から仲が良い幼馴染という設定にしている。


 そういう設定にしているからこそ、私も親しく振舞わなければならない。


「おはよー、美姫ちゃん。今日は暑いね」


「そうだね。朝、ニュース見たけど昼頃にはさらに暑くなるみたい」


「えぇ! 嫌だな~、家に帰って涼しい部屋でゆっくりとしたいな」


「カレンちゃんダメだよ! 学校はちゃんと行かなきゃ! 将来のためにも――」


「はいはい、わかったからさ」


 このように美姫ちゃんは、かなりの真面目ちゃんなのだ。


 でも、私は嫌いではない。このような人間を……。


 人間は愚かな生き物だ。私利私欲に身を任せ、悪事をするも時間が経てば経つほど、後に後悔する。


 まったく意味がわからない。


 それなら最初からしなければいいだけの話なのに……。


 しかし美姫ちゃんは違う。真面目で融通が利かない時もあるけど、自分の頭でよく考えてから行動する。


 それこそが人間の本質なのだと私は思っている。


 だからこそ……彼女は選ばれた。


 幸せになる資格がある者として……。


「ねえ、聞いてる?」


 どうにも女神のとしての癖が未だに抜け切れていないみたい。


 偉そうに人間について語っているが、今の私もこの世界に住む人間の一人。


「カレンちゃん聞いてるの⁉」


「う、うん? ごめん聞いてなかった」


「はぁ、やっぱり……」


 あ、落ち込んじゃったかな? 美姫ちゃんの話してること全然聞いてなかった。


「う、嘘だよ。ちゃんと聞いてたからさ」


「なら、何を話してたか言ってみてよ」


「ほら、今日は暑いなぁ~、なんて、えへへ」


「やっぱり聞いてない。今日はあの日でしょ?」


「う、うん。そうだね」


 あの日とは、私がとある男子に告白する日のことだ。


 女神である私が人間に⁉ なんて疑問に思う者もいるだろうから、詳しく説明しようと思う。


 じゃあ、早速この話には裏がある。


 実際に告白をするのは、私ではなくこの物語のもう一人の主役――烏丸良太(からすまりょうた)


 彼は高校のクラス内でも常に親しい友人に囲まれ、目立つ存在で女子達からは注目の的。


 でも、そんな彼には好意を抱いている人がいる。


 それこそが、今私の隣にいる美姫ちゃん。


 烏丸君みたいな男子ならもっと活発な子が好きだと思っていたが、そうではなかったらしい。


 それを知った時は……いや、知らされた時は驚いた。


 烏丸君は私と美姫ちゃんが幼馴染だということを知っており、もちろん私の正体もそして設定だということも知らないけれど、幼馴染設定である私にある相談をしてきた。


 美姫ちゃんの好きな食べ物や音楽、趣味、そして好みの男性像などを……。


 私に聞くより当の本人に聞いたほうがいいと思うのだけれど、あえてそれは口にしなかった。


 まあ、告白する前から僕はあなたに興味がある、と告げているようなものだし、さらに美姫ちゃんが自分のことを聞かれて嫌がれば、脈なしってことになるし、残酷な結果になりかねない。


 だからこそ女神である私が、今まで色々と根回ししてきたのよ。


 放課後の静かな教室で二人きりにしたり、図書館で二人きりで過ごせる図書委員に推薦したり、私含めた三人で美姫ちゃんの家で勉強会って話もあったけど、当日仮病を装って断り、密室の空間での二人きり、なんてこともやってきた。


 そんな私の努力もあってか二人の距離はかなり縮まっている。


 後は最後の仕上げとなる烏丸君から美姫ちゃんへの告白だけ。


 今日の放課後校舎裏にて二人の人生にとっての大きなイベントが行われるのだ。


 私は今日の放課後が楽しみ。


 それは当然。告白する側も受ける側もすべて私がセッティングしたんだから。


 この女神である私がわざわざ動いたのだから、いい方向に結果が進んでもらわないと困る。



 そして学校の正門を過ぎた辺りである男子生徒に声をかけられた。


 その正体は、烏丸君だった。


「おっはよう! 二人とも」


「おはよう」


 私はいつも通りのテンションで挨拶を返した。


「おはようございます。烏丸君」


 しかし美姫ちゃんは違った。


 何かいつもと少し雰囲気が違う。頬を赤く染め、烏丸君と目を合わせようとしない。


 そんな美姫ちゃんの対応を不思議に思ったのか、烏丸君は私の耳元で、


「なぁ、伊藤さんはどうしたんだ?」


「私が知る訳ないでしょ。まさか……あなた――」


「い、いや俺は何もやましいことはしてないからな」


 烏丸君はそう言いながら後ずさりをする。


「じゃあ、二人とも俺先に教室に行ってるからな」


 それだけを言い残し、烏丸君は校舎内に姿を消した。


 私はさっきの美姫ちゃんの態度に疑問を持った。


 何があったかは知らないけど、私で解決できることなら放課後までには解決してしまいたい。


 そうじゃないと間違いなく告白計画に支障をきたす。


「――っで、美姫ちゃん。今の烏丸君への態度どうしたの? 何かされたの?」


「ううん、別に何かされたわけじゃないけど…………少し恥ずかしくて」


「そ、そうなんだ。ふーん」


 何も言えない。特に大した理由もなければ、烏丸君が美姫ちゃんに何かしたわけでもない。


 これは、後で烏丸君に伝えて置かないとなぁ。気まずそうにしてたし。


 そして私達二人も教室に向かった。


 予鈴がなり、授業が始まる。


 ここまでは、朝のことがなければいつも通り。


 授業を受けていると時間が過ぎるのも早く感じる。


 女神が人間の授業を受けるなんて、本来ならありえない話だけど、人間について知識を得られるのなら損はない。


 

 そして、昼休憩。


 烏丸君に校舎の屋上へ呼び出されたが、朝の件だということは明きらかだった。


 そこで、烏丸君の話を聞いていると、やっぱり朝の件だった。


 烏丸君が心配していたのは、自分は嫌われているのでは、という心配だったようだ。


 だけど、その心配は無意味なことだ。


 だって、美姫ちゃんのほうは、烏丸君のことが好きで照れているだけの話だからだ。


 そこで、私は烏丸君にはっきりと伝えた。「あなたのことが気になっているからこそ、あのような態度を取ってしまう」のだと。


 そもそも女性なんてその人に興味がなければ、話かけるどころか挨拶も交わそうとしない。


 男性はそういった部分は本当に鈍感だ。


 まあ、でもすぐに気づけるなら、恋愛をしていてドキドキすることもないだろうし、異性が近くにいるからって意識することもないはず。


 そういった部分で人間という生き物は非常に興味深い。


 自らの感情だけで動く者が大半だからだ。



 そして、放課後まではあっという間だった。


 そろそろ待ちに待った時間。


 美姫ちゃんは校舎裏に待機させてある。


 私は体育倉庫でとある男子に告白する、という設定にしてある。


 美姫ちゃんはどうしても、私の告白の結果が知りたいと前々から言っていた。だから校舎裏で待機しておくように頼んだのだ。


 後は烏丸君がくるのを待つだけ。


 わくわくしながら、校舎裏の茂みに身を隠す私。


 そして姿を現したのは、烏丸君。


 どうやらかなり緊張しているみたいだ。


 一つ一つの身体の動きが滑らかではなく、まるで機械のようにカクカクしている。


「こ、これはまずいかも」


 私は茂みの中から一人でそうぼやいていた。


「あ、ああ、あの伊藤さん、いや、伊藤美姫さん! お、俺と付き合ってください!」


 烏丸君は美姫ちゃんに片手を差出し、頭を下げた。


 そんな烏丸君の様子を見て、美姫ちゃんは口に手を当て必死に涙を堪えているように見える。


 美姫ちゃんがどのような感情なのかはわからないが、やがて目元からは涙が溢れ、地面へと一滴、また一滴と滴り落ちる。


 これは、成功なのかな? いや、まだ油断は禁物。美姫ちゃんの返答がまだだ。


 その時、美姫ちゃんが口を開いた。


「ぐすっ、は、はい。お願いします」


 美姫ちゃんは、涙を流し、微笑みながら烏丸君の告白を了承したのだ。


 この返答で私の行動してきたことすべて意味があったと感じた。


 一時はどうなるかと不安にもなったが、成功してなにより。


 さて、私もそろそろ自分の居場所へと帰ろうかな。


 あ、そうだ。私は何の女神様だって気になるでしょ? でも、この日記を書いているということ……それは、恋の女神という答えしかないはずよ。


 そう。私の名前は、恋の女神クピドよ。


 以後、お見知り置きを。

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