第8話 ニック・マクレイからの依頼
「全くもうっ! カイ、ニックいい? 女の子はね、可愛いとか美人とか言われると自信がついてもっと可愛く綺麗になろうとすることができる生き物なのよ。男も似たようなもんでしょ、あざとい女にちょっと煽てられただけですぐに鼻息を荒くして張り切っちゃうんだから」
はい、全くその通りでございます。
「だから私はね、常に自分のことを褒めて褒めて自分を磨いているのよ。そもそもね――――――」
うーん、これは長くなりそうだ。
「と、ときにステファニー殿、ギルドへは依頼を受けに来たのではありませんでしたかな?」
「ん? あら、そういえばそうだったわね」
ナイスフォローだニックさん! やはり年の功は偉大だ!
とてもじゃないが俺はアレに割り込んで行くことなんてできない。
「実はステファニー殿に是非とも受けて欲しい依頼があるのです。報酬金は先ほどステファニー殿がまとめて持ってきた依頼のもの以上を保証いたしましょう」
「……面倒ごとかしら?」
「いえ、ステファニー殿であればすぐに片付けられる依頼です。西の街道近くの森に居座っているワイバーンの討伐の依頼です」
「何匹いるの?」
「一匹です。この街を拠点としている2組のAランクパーティが遠出をしておりましての、私がBランク冒険者と臨時パーティを組んで行こうと思った矢先にステファニー殿が来ましてな」
「なるほどね。いいわ! その依頼、このSランク冒険者の超絶天才美少女魔法使いのステファニー・ヴィオネが請け負ったわ!」
胸をトンと叩いてステフが言い放った。
「カイはしっかりとその目に焼き付けなさい、あなたがこれから目指すべき魔法使いをね!」
俺たちはすぐにワイバーンの討伐へと向かうこととなった。
街から目的地までは馬車で1時間ほどの所に位置しているらしいので今は馬車の荷台にステフと向かい合って座っている。
「カイ、時間というものは有限よ」
うん、その通りだと俺も思う。
「だから目的地に着くまでに魔法の訓練よ! でもこの短時間で新しいことはできそうにないからおさらいね」
「おさらい?」
「カイ、自身の魔力を感知したときの感覚は覚えているかしら?」
「今日のことだからな、そりゃ覚えてる」
「あの時カイは無意識ながらも魔力の量と質を伸ばすための訓練、瞑想に近いことをやっていたのよ」
目を閉じて魔力を感じようと集中していたときのことだな。
あれはとんでもなく時間が長く感じて集中力も必要だった。
「あれを今からやればいいのか?」
「ええ、いくつかポイントを言うからそれを意識してやってみるといいわ」
イメージとしては胸のあたりに魔力を溜め込んでいる器官があり、そこから全身に魔力が巡っていると考えろとのこと。
実際にはそんな器官は無いのだが、あくまでもイメージが大切だという。
その器官から体内に巡っている魔力の量を限界まで増やして、それを維持し続けるというのが瞑想という訓練方法らしい。
「本当に限界まで魔力を巡らせちゃったらぶっ倒れちゃうから少し気持ち悪いなってところくらいまでで止めておくのよ」
言われた通りに胸のあたりから魔力を全身に巡らせる。
おぉ、出来ている気がする!
そして身体に巡っている魔力の量を増やす、増やす、増やす!
すごい、すごいぞ! なんだか高揚感というか、身体に力がみなぎるようだ!
「ちょ、ちょっとカイ!?」
ステフが何やら言っているのが聞こえたような気がするが些末事だろう、今は瞑想に集中しよう。
俺はさらに多くの魔力を身体に巡らせた。
気持ち悪い感覚に全身が襲われた。
あー、確かステフは少し気持ち悪いなってところで魔力を増やすのを止めろと言っていたな。
だけどもうちょっとだけやってみよう。
何か感覚が掴めそうな、そんな気がするんだ。
「カイ? カイってば!?」
よしよし、これで…………ってヤバい、急に、気持ち悪っ……………。
俺はすぐに瞑想を中断して荷台から身を乗り出した。
「うっぷ、お、おえぇぇぇぇぇぇっ……」
盛大に吐いてしまった。
ステフは俺の背中をさすり、優しく諭すように俺に言った。
「カイ、よくあそこで止められたわ。あれ以上やっていたら私が力づくで止めるところだったもの。この感覚をしっかり覚えて、次はこうならないようにしなさい」
「はい……」
「じゃあ今日はもう身体を休めておきなさい」
怒られるのは嫌だがこれはこれでなんだか気恥ずかしいな。
そんなことを考えながら、俺は目的地に到着するまでの間休むこととなった。
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