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第1話 超絶天才美少女魔法使いとの邂逅

 

 暗がりのゴミ捨て場で女が倒れていた。

 ここはスラムと呼ばれている場所で、職もないどうしようない連中が屯しているような所だ。

 そんなスラムで行き倒れている奴を見かけるなんてしょっちゅうであり女が倒れているのを見ても、またかと思うだけで通り過ぎようとした。

 するとその女から呻き声が聞こえてきた。


「まだ息があるのか……」


 呻き声に釣られてその女をよく見てみると何か違和感を感じた。


「あぁ、身なり良すぎるのか」


 その女は薄汚れたボロボロのローブを羽織ってはいるもののその中に着ている服はスラムには似合わないいかにも高価そうな物だった。

 見ぐるみ剥がせばしばらくは食いっぱぐれずに済みそうだなんてことも考えはしたが俺の中の僅かな良心がそれを許さなかった。


「はぁ……まぁたんまり礼を貰うとするか」


 俺は女を背負って寝床へ帰った。

 女の目が覚めたのはその翌朝、日が昇ってしばらくしてのことだった。



「ん……ここは……?」


 拾った女が目を覚ましたようだ。

 瞼を擦りながらキョロキョロと辺りを見回し俺と目が合った。


「気がついたか?」


「えぇ、どうやら助けられたようね。ありがとう」


 改めて女を見てみると何でスラムのゴミ捨て場に倒れていたのかと疑問に思った。

 年齢は俺と同じ15歳くらいだろうか、透き通るような白い肌に長い艶やかな金髪、翠眼のつり目で少し気が強そうだ。

 どこかの金持ちの娘か? でもなぁ、あまりそうは思えない……。


「体調はどうだ?」


「おかげさまで、と言いたいところだけど……」


 女の方からぐぅーっと腹の虫が鳴く音がした。


「見ての通りうちは貧乏だ。お前さんがいつも食ってるようないい物は出せないぞ?」


「ありがとう、いただけるかしら?」


 女は恥ずかしそうに苦笑いして俺にそう返事をする。

 俺は女に黒パンとスープを用意した。

 黒パンはとてもじゃないが噛み切ることができない固さで、スープに浸したりなどしなければ食べることができない。

 スープは薄味すぎてほとんど味がせず具材も入っていない、ただのお湯よりはマシ程度の物だ。

 こんなのでも俺にとっては2日に1回の贅沢な献立である。

 これで固いだの薄いだの文句を言ってきたらどうしてやろうか。

 そんなことを考えていると女がパンに手をつけた。


「あ、パンは――」


 パンは固くてそのまま食べられないからスープに浸して食べろと言いたかったのだが、女はそれを聞くまでもなくスープで浸して柔らかくなったパンを口にした。

 すると女は俯いて肩を震わせていた。


「うっ……」


 む? そんなに不味かったのか?


「美味い……美味すぎるわ!」


 女は目に涙を浮かべながら尋常じゃない早さでパンを平げ、スープも一息に飲み干した。


「はやっ」


 ゴホンと咳払いをして女は口を開いた。


「改めてありがとう、私の名前はステファニー・ヴィオネ。よければ命の恩人さんのお名前を教えてもらってもいい?」


「俺の名前はカイだ」


 俺は名乗った後そのまま言葉を続けた。


「それでだ。なんであんな所、スラムのゴミ捨て場で倒れていたんだ?」



「私の今の状況を説明するにはまずは知っておくべきことが1つあるわ! いえ、むしろこれさえわかっていれば後は芋づるにわかるわ」


 ステファニーは立ち上がった。


「ある時は可憐な蝶のように戦場を舞う剣姫と呼ばれ……」


 ステファニーは手を広げくるりと一回転する。


「またある時は奇跡の歌姫と呼ばれ、多くの観客を沸かせた……その正体はなんと、なんとなんとなんと……」




「超絶天才美少女魔法使いステファニー・ヴィオネ、私のことよ!!」


 フンスッと鼻息を荒げ、ドヤ顔であまりない胸を張っている。

 よくそんなに反るもんだと思うくらい背中を反らして仁王立ちで胸を張っている。



 魔法とか気になる単語が出てきたけど1つだけ確信した。


「バカ拾っちまったか……」

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