強敵
雄一は今日も今日とてダンジョンにアタックを行う。
舞香には連日で行かなくてもよいと言われたがそうはいかない、一週間の内学校がある日はダンジョンに行って帰ってくるだけで時間が潰れてしまうのだ。
時間がある土日に稼がなくてはならない。
「それにしても、結構慣れてきたな」
未だに生傷が絶えないダンジョンアタックだが、なんというかダンジョンの歩き方というものが分かってきたような感覚がある。
もっとも、その生傷のせいで学校では喧嘩に明け暮れて居るだのよくない輩と連んで居るだのとささやかれているらしいが、知った事ではない。
そんな事を考えていると、モンスターの気配がする。
数は2つ、ここは第二層だからたまたま鉢合わせたゴブリンなり蝙蝠なりがいるのだろう。
そう思ってダンジョンの壁に背を付けて、ポケットから手鏡をとりだしてこっそりと覗いてみる。
居たのはゴブリンが二匹、しかし片方はどうも様子がおかしい。
見守って居るとふらふらと頭を揺らしている様子のおかしいゴブリンが、いきなり棍棒を振り上げてもう片方のゴブリンを殴りつけた。
仲間意識どこ行った。
一撃だ、殴られた側は小さく悲鳴を上げるとそのまま崩れ落ちダンジョンに飲み込まれる。
そして残ったゴブリンがその場に残ったものを食べ始めた、共食いと言っていいのか分からないがおそらくは魔石や角の欠片を貪っているのだろう。
「何をしてるんだ? っあ」
異様な光景に思わず手を滑らせて鏡を取り落としてしまう、カツーン・・・・・・と言う音が洞窟に響く。
『GI・・・・・・』
「やばい!」
慌てて鏡を拾いに行くが、そのせいでゴブリンに姿をさらしてしまった。
「クソ!」
慌てて鉈を抜いて構えようとするが、その時には既に目の前に小鬼が接近している。
今までのものよりも動きがずっと速い。
「うわ!?」
『GIAAAA!!』
通常のゴブリンよりも遙かに強い膂力でもって振るわれる棍棒を辛うじて左腕のプロテクターで受け止めることが出来た、がミシリという嫌な音が身体の中に響く。
「いってぇな、この!」
ゴブリンの頭にめがけて鉈を振り下ろすが、相手はその小さな身体を翻すと余裕と言った表情(モンスターの表情など分からないが)で回避された。
(こいつ、他のゴブリンよりずっと厄介だぞ!?)
思い当たる節は先ほどの共食いしかない、しかし魔石を取り込むだけでここまで強さが変わるものなのか。
疑問は腕の痛みと共にいったん忘れ、鉈を両手で持ち正眼に構える。
異常な状況の中で、何時もと変わらぬ握り心地が安心感を与えてくれた。
このまま責め続けられたら負ける、いっそ動物的と言えるような直感によって自身の危機を予見する。
ステップを踏むようにリズムを刻み鉈を振り下ろす、やはり回避されてしまうがそのまま素早くゴブリンの股間に向かって蹴りを繰り出した。
ゴブリンの生態なぞ知ったことではないがそこに弱点があることを祈っての蹴りだ。
どうやら運が味方をしてくれた様で、鈍い手応えと共にゴブリンが蹲るように背を丸める
。
背中に刃を振り下ろすと、ゴブリンはゴロゴロと転がって距離をとった。
その隙に取り落とした棍棒を蹴飛ばして遠くに追いやる。
『GIGIGIGI・・・・・・』
「第二ラウンドは俺の勝ちだな」
言葉が通じているかも分からない相手ににやりと笑みを浮かべた、四つん這いになったゴブリンが歯ぎしりをしてこちらを睨む。
「行くぞ、ぶっ殺してやるから覚悟しろ」
『GYAA!!』
鉈を横凪に振るうが小鬼が身をかがめて回避し、胸に頭突きを繰り出してくる。
胸当て越しにも、肺の空気がすべて抜けるような衝撃が伝わり雄一がたたらを踏んだ。
そのままゴブリンが鋭い爪でしっちゃかめっちゃかに身体を掻きむしってくる。
思わず鉈を取り落とすが、ゴブリンの頭を掴んでおもいっきり膝をその顔に叩き込む。
ゴブリンがひるんだ隙に果物ナイフを取り出すと相手の喉に向かって突き出す、慌てた様子で回避する小鬼の首を浅く切り付けるが致命傷には至らなかった。
その後も殴る蹴るひっかく嚙み付く、埃まみれになりながらお互いの肉体を削り合う。
熱く、沸騰するような頭でぼんやりと考える。
自分は、何処かでダンジョンと言うものを甘く見ていたのかもしれない。
ちょうどいい強さのゴブリンたち、地上よりも冴えて反応する身体に知らないうちにいい気になっていたのではないだろうか。
予想外のイレギュラー1つでこんなボロボロになっているのがいい証拠だ。
ダンジョンに慣れてきたなんて思い上がりもいいところ。
そう考えている内に、ナイフの刃が小鬼の喉を捉えた。
『GYA!!?』
ぜいぜいと、肩で息を切りながら立ち上がる。
果物ナイフでズタズタになった相手を見下ろす、きっと自分も似たような姿をしているだろう。
雄一が勝てたのは、単純に武器と防具を用意していたからに過ぎない。
それがなければコイツと立場が逆だっただろう、という妙な確信が胸に広がっていた。
刃こぼれをした果物ナイフを逆手に持ち小鬼の胸にブズリ、と差し込む。
『GA、AAAAAA・・・・・・』
虚ろな目になった小鬼は最後に呻くと、ゆっくりとダンジョンの床に飲み込まれていった。
後に残されたのは他のゴブリンのものよりも一回り大きな魔石のみ、先ほどまでいた強敵の影はスカリと消え失せてしまった。
「お帰りなさい、随分ボロボロになったのね。まさか・・・・・・」
受付はここ最近顔を見せるようになった少年へ声を掛けた。
「下の層には行ってませんよ、ただなんというか強敵と出会いまして」
「強敵?」
少年の話を聞いてある1つの現象についての噂を思い出す。
「それは、きっとレベルアップした固体ね」
「レベルアップ?」
「そう、よくゲームであるでしょう? モンスターを倒すとレベルアップして強くなる! っていうやつ」
「すいません、あまりゲームってしなくて・・・・・・」
「あら、そうなの?」
とにかく、魔石を食べたモンスターがより強いモンスターとなりその階層の入り口を守るガーディアンになる、と言う噂があることを伝えた。
実際にガーディアンになるかはともかく、そうした個体が急激に力を付けることは確認されている。
「見たところ、随分苦戦したみたいね」
時計をチラリと見れば、まだ昼過ぎだ。
これまで夕方まで粘っていた彼が帰ってくるには早い時間帯である、おそらくそのガーディアン級の個体と戦ってすぐに帰ってきたのであろう。
無理はしたようだが、無茶はしない姿勢には好感が持てる。
「それじゃあ、改めていらっしゃい。集めた素材を階垂らせて貰うわ」
そう言って意識を仕事用のものに切り替えた。
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