ダンジョン会議(第一回)
「お兄ちゃんお帰りなさ、きゃああああ!? どうしたのその怪我!」
雄一が自宅に帰ると、いつも通り合鍵で侵入していた舞香がいつもには無い悲鳴を上げた。
「ちょっと切っただけだよ、大げさだな」
「大げさなもんですか! ちゃんと見せて!」
ぷんすこと心配する舞香に引っ張られて家の中に入る。
ガーゼを剥がすときに、乾いた血が一緒に剥がされて密かに唇を噛んだが声を出すことは我慢が出来た。
「ああ、よかった。ホントに軽く切っただけだ」
「だからそう言っただろ」
彼女はリュックから治療道具を取り出すと、水で濡らしたタオルで患部を拭き丁寧にガーゼを張り直した。
思い返せば、小さい頃も怪我をしては舞香に手当をして貰ったことがあった気がする。
「よかった」
怪我をした左腕に優しく手を当てそう言う舞香、つい頭に手を伸ばして撫でてしまう。
目尻に涙を浮かべた彼女は大きく息を吐くと躊躇いがちに睨んでくると言う器用なまねをした。
「私言ったよね。無茶はしないでって」
「約束通り無茶はしてないぞ、この傷だって骨折したりしたわけじゃない」
「それでも心配なものは心配なの」
そう言って眉尻を下げた舞香が泣きそうな顔をする。
雄一も安全には十分気を遣っていたつもりだ、実際蝙蝠が二匹たむろしていた場所は引き返して戦わない様にしていた。
そう言う意味では、謎のパチパチに感謝である。
「お兄ちゃんがダンジョンに言ってる間、ずっと不安だったんだよ。もしかして怪物に食べられちゃうんじゃないかって、そうでなくても何処か大きな怪我をしちゃうんじゃないかって」
「大丈夫、ちゃんと帰ってくるよ。俺だって痛いのや死ぬのは嫌だからな」
それでも心配そうな顔をする舞香。
「今日だって朝来たらお兄ちゃんもう居ないから、私どうしようかと思って困ったんだから」
「だって、朝あったら必ず止めるだろう?」
「止める。だってダンジョンに行くのなんて反対だもん」
「何を言われたって俺はダンジョンに行くからな?」
「だったら私も、何度だってお兄ちゃんを止めるから」
全く、誰に似たのか頑固な舞香は怒ってますと言うポーズを前面に押し出してきた。
どうしたものか、この妹分はどうやっても意見を変えないだろうと言うことが長年の経験で分かってしまう。
そして今回、わがままを言っているのは自分なのだ。
ここはこちらから、何か妥協案を出すべきだろう。
「それじゃあこうしよう、俺がダンジョンに行くときは必ず舞香に教える。前もってこの日に行くって言うのをカレンダーとかに付けておくよ」
「教えるからどうなの」
「俺は絶対に、ちゃんとここに帰ってくるから。だから舞香は安心して俺の心配をしてくれ」
「それじゃ安心するのか心配するのかわかんないよ」
困った顔をしながらも、それまでの怒りをなんとか収めてくれた舞香に感謝する。
「それじゃあ今回の戦果を報告する」
「わー」
小さなリビングに舞香の拍手が鳴り響く。
舞香に進言したダンジョンに行くときは必ず報告すると言う約束の他に、もう一つだけ彼女から条件を言い出してきた。
それが、ダンジョンで得た収支を報告すると言うものだったのだ。
・・・・・・食事を作ってくれる、所謂通い妻状態の彼女に教えるのはなんだか財布を握られている様な感じがするが仕方ないだろう。
「倒したのはゴブリン三匹と蝙蝠五匹。売ったモノは魔石八つにモンスター素材を少々」
「少々もちゃんと報告して下さい」
「はい。小鬼の角1本と蝙蝠の牙3つです」
「それでこの金額、内訳もちゃんと書かれてるんだ」
ん~、と小さく唸りながら買い取り表を睨む舞香。
真剣なまなざしの裏では色々と計算が行われて居るのだろう。
「正直なところ、儲けが少ないです」
「随分はっきり言うな」
少しぬるくなったお茶を飲んだ舞香が切り出した。
「確かに魔石の買取額は高いけど、それでも合計金額が低いです。魔石の数を増やすか、一個あたりの金額を上げていかないとそこら辺でバイトをするのと変わりません」
「そうだよなぁ、俺だって流石にこのままだったら普通に働くぞ」
「私は分からないんだけど、何か改善策はあるの? お兄ちゃん」
妹に問われ手を上げて返事をする。
「どうやら魔石には純度っていうものがあるらしくてさ、より高純度なそれでいて大きな魔石を獲得できればその分だけ高額買い取りになっていくらしい」
「その高純度の大きな魔石って言うのはどうすれば手に入るの?」
「簡単に言えば、ダンジョンのより深くだな。深ければ深いほど純度が高くなって、モンスターが手強くなるほど魔石のサイズも大きくなるらしい」
「やっぱり危険なんだよね」
「そりゃあな」
うーん、と唸りながら腕を組む舞香。
雄一はお茶を飲んで喉を潤した。
「あまり危険な所には行って欲しくないから、ダンジョンの浅いところで頑張って欲しいんだけど。モンスターを倒す数って増やしたり出来ないかな?」
「わからん。なにかモンスターを目の前に呼び出す方法があれば出来るかもしんないいけど」
「だよねぇ」
いつの間にかとりだしていたノートにさらさらと何かを書き込んで行く舞香、どうやらこの会議の詳細を詰めているようだ。
さらに雄一から受け取った買い取り表も貼り付けメモを残していく、几帳面な彼女らしい。
「それじゃあこれで第一回ダンジョン会議を終了します」
「あ、有り難うございました?」
得意げにノートを掲げた舞香に頭を下げてその日はお開きとなった。
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