男性
「あら、今日は彼女たちと一緒じゃないの?」
「ええ、まあ」
雄一は今日も今日とてダンジョン館を訪れていた。
換金窓口の女性と軽口を交わしながら、今日のモンスター素材の買い取り価格を確認する。
「そういえば、モンスターってここに書いてあるやつ全部がこのダンジョンに出てくるんですか?」
「いいえ。モンスターの名前にチェックがついてるものだけよ、ただ未発見なだけで本当はいるかもしれないから色んな種類のモンスターが書かれているのね」
リストをめくって見ると、チュパカブラやビックフットと言ったモンスターと言うよりは別の何かじゃないかと思うような名前もチラホラと窺える。
「このダンジョンで出てくるのはゴブリン、大蝙蝠。もっと深い階層に行けばコボルドや迷宮サソリなんかも沸いてくるわね。分かってると思うけど」
「分かってますって、一人では行きませんよ」
じっと見つめてくる受付にそう言うとにっこりと微笑まれた、なんだか子供扱いされてるなぁ。
実際、子供なのだが。
「なんだ? 今日は随分若いのがいるな」
と、唐突に声を掛けられた。
振り向けば壮年の男性がそこにいた。
金属製の鎧や剣と言った装備を見れば、男性も自分と同じダンジョンハンターであることが分かる。
「珍しいな、こんな過疎ダンジョンに同業じゃない若者がいるなんて」
「あの、俺もハンターです。一応」
同業じゃない、と言う単語に反応してみれば男性はきょとんとした後に笑い出した。
「わはは、悪い悪い。そうじゃなくって、企業ハンターじゃないって意味で言ったんだ」
「企業ハンター」
それはダンジョンに関わる企業(主にモンスターの研究らしいが)に専属で契約をしているハンターの称号だったはずだ。
つまり、自分はアマチュアで男性はプロのハンターと言うことになる。
であるならば、同業ではないと言ったことも理解出来る。
「確かここってコボルドが沸いたよな? ちょっと素材集めてくれって頼まれちまってな」
「行くんですか? 三階層に?」
ちら、と男性の背後を伺ってみるが同行者の姿は見当たらない。
男性自身も荷物をさほど背負っていない、軽装だ。
にもかかわらず受付の女性は特に止める様子もなかった。
「危険なんですよね? 三階層って」
「おうよ、まああれだ強くなりゃ問題ねぇってことだな。少年もついてくるかい?」
「えと・・・・・・」
突然の提案に戸惑っていると、男性は待たしてもわははと笑った。
冗談だったらしい。
「あの、どうすれば一人でも三階層以降に行けるくらい強くなれますか?」
「お? やっぱり気になるか。でも残念だが企業秘密だな」
ダンジョン改札の方へ向かって歩き出した男性について行く形で自分もダンジョンへと侵入する。
いつもの悪寒に狩る首震いをする。
「お、なに? 少年、『アレ』感じるの?」
「あれって、なんかこう。寒気がするやつですか?」
「そうそう」
頷くと、男性は感心したようにほほう、とつぶやいた。
「じゃあこれもあるだろ、モンスターに出会う前の居るぞ!っていう感覚」
「ありますね」
「そうかそうか、そりゃいいことだ」
どういうことか聞いてみると男性はにやりと笑い、
「才能があるよ、お前さん。もしかしたら一廉のハンターになるかも知んねぇな」
「そうなんですか?」
そうなんですよ、と肯定した男性は雄一の頭をぽんぽんと叩くとタバコに火を付けてダンジョンの奥へと歩いて行ってしまった。
後には、鼻になれない香りだけが残される。
「才能か」
そんなものが自分にあるとは思わないが、仮にもプロにそう言って貰えるのは嬉しいものだ。
雄一も、ダンジョンの第二階層を目指して歩き出した。
今日も稼がなければならない。
「疲れた」
「はい、お疲れ様。今回も頑張ったわね」
受付に手に入れてきた魔石や素材を渡した雄一は、フロントのソファにどっかりと座り込んだ。
今日は昨日のロスを少しでも埋めるべくダンジョンの中を駆けずり回ってゴブリンと蝙蝠を片っ端から狩って狩って狩りまくった。
もう居なくなったんじゃないかと思うほどモンスターを倒したのに、帰り道でもひょっこりゴブリンが顔を覗かせたものだから驚いた。
ダンジョンとはかくも謎の多い場所である。
水筒に残っていたお茶を飲みながら、今朝遭遇した男性のことを考える。
この、いつも利用しているダンジョンでは第三階層から1つの所に複数のモンスターが現れる確率が高くなるはずだ。
それはつまり、個人のハンターでは数の利で上をとられると言うことであり大変危険である。
市役所のHPでも同行者が居ない場合はモンスターのレベルが高いことも相まって大変危険な場所である、と紹介していた。
そんな場所に一人で向かったあの男性、ダンジョンを攻略するからくりがあるはずだと思う。
ダンジョン、強さ、レベル、レベルアップ。
「うーん分からん」
男性の言っていた企業秘密とやらも関係しているんだろう、なにかひらめきそうなのだが喉で支えたように答えが出てこない。
結局その日は答えが出るまえに会計が終わってしまったので帰宅することにした。
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