Vol.7 同期の桐谷君
「よっ」
会社でいつも通り仕事をしていると、買い付けで海外出張に行っていた桐谷君がいて驚く。
「あれ、桐谷君、出張から戻ってくるの今日だったっけ?」
「社長に呼ばれて成田から直で会社戻った」
言いながら手に持っていたキャリーケースに視線をちらりと流す。
「それはそれは、おかえりなさい」
椅子ごとくるっと桐谷君の方を向き、軽く頭を下げて労いの言葉をかける。
「じゃー、お疲れ様会やらなきゃだね、桐谷君のおごりで」
「なんだよそれ、まっ、いいけど」
冗談で言ったのに、快活な笑みを浮かべていいよって言ってくれる桐谷君に、つられて私も笑ってしまう。
「いいんだ?」
「いいよ。今日とかどう?」
「あー、ごめん、今日はちょっと早く帰らなきゃで……」
蓮君に定時で帰るって言っちゃってるしね。しかもご飯を用意して待っててくれるのだから、約束を守らないわけにはいかない。
「そっか、じゃあ明日は?」
「明日祝日じゃん、桐谷君予定とか大丈夫なの?」
「予定なんてないし、ってか、出張から帰ってきた翌日なんて寝て過ごす予定。夜までには起きるから」
「結構、寝るんだ。私も明日は特に用事ないから大丈夫だけど」
「じゃ、適当に店は予約してラインする。ちゃんと予定空けとけよ」
「はいはい、みんなにも声かけとくよ」
「おう。そうだ、これ」
そう言って桐谷君が差し出したのは、手のひらより少し大きいサイズのカラフルな色の袋に外国語が書かれたグミだった。受け取って、裏返したりして包み紙を眺めまわす。なんて書いてあるか字は読めなかったけど、可愛らしい絵で描かれているのはミミズ……? ヘビ……?
「また、すごいの買ってきたねぇ……」
なんとも言えない表情でつぶやいたら。
「現地の人におススメ聞いたらこれがおいしいって言うから。教えてもらった手前、買わないわけにいかないだろ? 他の女子は無理っていうからさ。森はこういうの気にしないだろ」
「はいはい、私は女子じゃないですからね~」
そんな桐谷君の嫌味もさらっとかわして、桐谷君と二人で笑いあう。
「お土産、ありがと」
「おう、味どうだったか教えろよ、あっ社長が呼んでるから行ってくる」
そう言って桐谷君は、奥の会議室へ行ってしまった。
少しして、社長との話が終わって会議室から桐谷君が戻ってきた。
「社長、なんだって?」
「もう次の取引の話」
「さすが、優秀な営業マンは違うね~、めっちゃ社長に頼りにされてるじゃん」
うちは社員三十名ほどの海外食品を扱うベンチャー企業、社長もわりと若くて気さくでアットホームな会社。同期の新入社員は桐谷君と私だけで、桐谷君の方が年齢は一つ上なんだけど、同期と言うことでタメ口だし、入社時からわりと仲良くしている方だと思う。
桐谷君は主に海外のバイヤーとの交渉や新商品の調査などで海外に行くことが多く、私は仕入れてきた商品の在庫管理やネット販売関連が主な業務で会社にいることが多いから、あまり一緒に仕事をするって関係ではないけど、会社での飲み会以外に、時々、二人で飲みに行ってお互いの近況を報告しあっている。
会議室から戻ってきた桐谷君は私が今作っている途中のホームページのデザインを見て意見をくれたり私のデスクで少し話して、桐谷君は自分のデスクに戻り、それぞれ自分の仕事に取り組んだ。
定時になる少し前には、今日の仕事のバックアップをとったり、仕事を切り上げる準備を始める。意外とこの作業に時間を食われるので、今日は定時前にはバックアップにとりかかる。
手早く仕事を切り上げて帰ろうとしたら、先輩の山下 真珠さんに声をかけられた。
「はぐみが定時で帰るなんてめずらしい」
「今日はちょっと……」
「もしかして男!?」
恋愛大好きの真珠さんに好奇心全開の大きな声で聞かれて、ドキッとする。
聞いている意味とは少し違うけど、的を射ているともいえる指摘に動揺してしまう。
「えっと、昨日、男の子を拾って……」
本当のことを話したらどんな反応をされるのか予想がつかなかったけど、変に誤解されるのも困るので昨日の出来事を正直に話したのに。
「また猫拾ったの? しかもオス? たまってメスじゃなかったっけ? 大丈夫なの?」




