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拾った責任、とってよ  作者: 滝沢美月
3月19日(木)晴れ
6/35

Vol.6  朝食



「蓮君、起きられる?」


 まだ寝ている蓮君にそっと声をかけてみて、反応がなかったのでダイニングキッチンに戻る。

 昨日の夜、蓮君はソファーの足元にもたれたまま眠ってしまった。何度か声をかけたけど起きなくて、さすがに私の力じゃ蓮君を布団まで運ぶことは出来ないから、仕方なく掛け布団だけを持ってきて蓮君の体にかけてあげた。

 いつも起きる時間に起きてきて、リビングからたまの鳴き声とソファーに頭を乗せて静かな寝息をたてている蓮君を見て、一瞬驚き、そうだったっと思う。

 蓮君がいることを思い出した。

 つい昨日まで一人暮らしで、家の中に自分以外の誰かがいることに不思議な感じがする。でもそれは嫌な感じではない。

 私はいつも通り会社に出勤しなきゃいけないから、簡単に朝食の準備をする。蓮君が起きなくても、起きてから食べれるように二人分の食パンをトースターで焼き、昨日の残りのサラダをお皿に盛る。

 コーヒー豆を瓶から出してコーヒーミルで豆を挽いてコーヒーを淹れる。コーヒーの芳香な香りがふわっと広がる。

 お皿をダイニングテーブルに運び、朝食の準備が整ったので、もう一度リビングを覗くと、さっきまでソファーに頭を乗せていた蓮君が体を起こしていた。

 ぼーっと焦点の定まらない眼差しで前を向いてて、振り返った蓮君と視線が合うと、ぽふっとまたベッドに顔を伏せてしまった。


「ご飯できたんだけど、起きられそう?」


 私の言葉に勢いよく体を起こし、蓮君は頷く。


「大丈夫。ちょっとビックリしてた……」


 最後の言葉は小さくてよく聞こえなかったけど、あまり気にしないことにする。

 蓮君は起き上がり、寝乱れた浴衣を直しながらダイニングにやってきて、先に座った私の向かいの食器が置かれた席に座る。


「いただきます」


 二人で一緒に手を合わせてご飯を食べ始める。


「はぐちゃんってどんな仕事してるの? OL?」

「海外の食品を輸入する会社で働いてるよ。蓮君は買い物に行くんだっけ?」

「さすがに下着は変えたいし、必要なもの買ってくるよ。その後は掃除しとく?」


 蓮君の言葉に昨日のやり取りを思い出す。そういえば、蓮君が泊めもらうお礼に掃除するって言ってたっけ。


「掃除は週末にしてるから大丈夫。適当に留守番しててくれればいいよ」

「そう?」

「うん。今日は定時で上がれるようにするから、帰りにスーパー寄って、夕飯は冷凍じゃなくて何か作るから期待して待ってて」

「それなら、俺がはぐちゃんの好きなもの作って待ってるよ。買い物のついでにスーパー寄って食材も買ってくるし。何がいい?」

「えっと……」


 ここで断ることも出来たんだけど、断ったら昨日と同じ返しをされるんじゃないかって気づく。それに、蓮君は誠意で言ってくれてるんだから、掃除も断って料理も断ってしまうと、きっと蓮君は納得しないだろう。


「ぶり大根、食べたい」


 渋々、言ったら、蓮君は男の子にしては元々大きな目をさらに見開いてびっくりしていた。


「はぐちゃん、魚好き?」

「そ、そういう訳じゃないけど、ブリって一切れであんまり売ってないし、煮物って一人だとなかなか作れないから……」


 蓮君は家事が得意ってわけでもないって言ってたのを思い出して、慌てて言い直す。


「あの、無理なら簡単に作れるものでいいから」


 それなのに、嫌な顔をせず、蓮君はふんわりと優しい笑みを浮かべる。


「たぶん大丈夫。スマフォで検索すればレシピ出ると思うし。どうせ作るなら、はぐちゃんの食べたいもの作りたい」


 斜めにこっちを見つめた瞳に甘い笑みがにじみ出て、めまいがするほど素敵だった。

 昨日の蓮君は無表情だったり、刃物みたいに鋭い眼差しをしてて気づかなかったけど、こうやって朝の陽ざしの中で見る蓮君は端正な美貌の男の子だった。男の子にしては大きな瞳は黒く澄んでいて、彫像のように整った輪郭と鼻筋、微笑を浮かべた唇は艶やかで気品があった。癖のついた髪の毛は薄茶色でふわふわと柔らかそうだった。思わず見とれてしまうような美貌の蓮君に、いってらっしゃいと見送られて、私は会社へと出勤した。




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