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拾った責任、とってよ  作者: 滝沢美月
3月18日(水)晴れ
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Vol.4  男の子を拾った場合



「拾ったんだから、責任とってよ――」


 突拍子もないその言葉に瞠目する。

 ええっと……

 近年、捨てられるペットが増え、ペットの飼い方について飼い主に適正な飼育を行うよう呼び掛けられることが増えていた。

 確かに、飼うと決めたペットや拾ったペットに責任は持たなくちゃいけないけど……

 拾ったのが男の子の場合って、どうなんだろう……

 そこまで考えて、いやいやっと首を振る。

 人間なんだから、自分で家に帰れるだろうし、ペットと一括りにして考えられないでしょ。

 そもそも、ケガの手当てをするために家に連れてきたのであって、捨て猫のたまを拾ったみたいに家でお世話をするつもりで連れてきたんじゃないんだし……

 突飛な発言にその言葉の方が正当っぽく聞こえて納得しかけてしまったけど、よくよく考えてみれば、私に男の子を拾った「責任」なんてないはずだ。

 でも。

 家に帰りたくないというくらいだから、彼がなにか訳ありなんだと察する。


「いいよ」


 わりと即答で答えると、男の子のほうがビックリするから、「でも」と続ける。


「なにも知らないままでは泊められない。えっと……」


 その時になって初めて、お互いに名前も名乗っていなかったことに気づく。彼もそのことに気づいたみたいで、ぼそっと名乗る。


「蓮」

「森 はぐみです」


 言って、ぺこって小さくお辞儀する。


「はぐみ?」

「仲いい子ははぐちゃんって呼ぶよ」

「じゃあ、はぐちゃん」


 そう言って笑った顔はこの上なく優しくて、その眼差しはうっとりするほど甘やかで、ドキッとしてしまう。さっきまでの刃物のような鋭さよりも、この優しげな眼差しの方が蓮君の素なのだろうと感じる。たまはまた蓮君の膝の上に落ち着く。たまがすっかり懐いているのも、蓮君が優しい子だと感じ取ってるからだろう。


「蓮君、いくつ?」

「20」

「大学生? 学校は?」

「春休み。はぐちゃんは?」

「二十五歳。家は近くなの?」


 首を横にふる蓮君。

 矢継ぎ早に質問する私に蓮君は嫌な顔をせず、答えられることは答えて、答えたくないことは答えないようだった。


「うちにいるって、お家に連絡した? お家の人、心配してるでしょ」


 そう聞いたら、心底嫌そうに眉根を寄せる。


「まさか! この年にもなっていちいち居場所を親に連絡しないし」

「そういうもの……?」


 自分の感覚ではちょっと分からなくて首をかしげてしまう。

 うちは物心ついたときには父親はいなくて、母は小学三年生の時に病気で亡くなって、それからは母方の祖父母と暮らしていたんだけど、去年、海外旅行の帰りに祖父母は交通事故で帰らない人になってしまった。その直後は、オーストラリアに永住していた母方の叔母が帰ってきてくれて、祖父母のお葬式の手配とか区役所への手続きなど色々とやってくれた。母の死後、数回しか会っていなかった叔母だけど、その時はとても頼もしく思えたものだった。葬儀が済むと叔母はすぐにオーストラリアに戻ってしまったけど、それまでは疎遠だった叔母との繋がりがあることを感じて心強かった。


「だから、親が子供の心配をしないとかよくわからなくて、私の方がずれてるのかもだけど……」


 あまり重い雰囲気にならないようにさらっと説明して言った私に蓮君は。


「ごめん……」


 辛そうに眉根を寄せてぽつっと謝るから、ふふっと笑みがもれる。


「蓮君が謝る事じゃないよ、誰にもどうしようも出来なかったことだから。それに、私にはたまがいるから。おじいちゃんもおばあちゃんもいなくなって一人ぼっちになっちゃったとき、たまに出会ってたまが私を癒してくれるの」

「ニャーオ」


 いつの間に起きたのか、前足を伸ばして体を曲げるように伸びをして体をぷるっと震わせたたまは甘えた声を出して、蓮君の膝から降りて私の体にすり寄ってくる。そんなたまを抱きしめながら言ったら。


「じゃあ」


 蓮君はソファーに座ったまま私の方を向き、おいでって言うみたいに両手を広げて、艶めかしい瞳で見つめながら言った。


「俺がはぐちゃんの癒しになってあげるよ――」




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