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拾った責任、とってよ  作者: 滝沢美月
3月31日(火)曇のち雨
33/35

Vol.33  君を信じて

前半ははぐみ視点、後半は蓮視点です。



「なに? 悩み事――? 仕事熱心な森が、仕事そっちのけで考え込むなんて、聞いてやってもいいけど?」


 ちょっと上から目線で勝気な桐谷君に聞かれて、私は思い切って相談してみることにした。

 ただでさえ仕事の会議中に集中力を欠いて話を聞いていなかったのだから、さっさと仕事に集中するべきなんだろうけど、仕事に集中するためにも今の悩みを解決してしまうのが近道に思えて。

 このままだと、いつまでたっても蓮君のことをぐだぐだ考えてしまいそうだから。

 ある程度事情も知っていて、蓮君の素性を知っていた桐谷君は相談相手にはこれ以上ない適任者だし。


「――ということで、蓮君が荷物まとめて出て行っちゃったのが気になってて……」


 蓮君がちゃんと話そうって言ってたのに、出て行ってしまったことをかいつまんで説明する。

 もちろん、私が蓮君を好きだって気づいたことは隠して、だけど。

 さすがに、つい一週間前に、桐谷君に「蓮君とはそういうんじゃない」って言ったばかりなのに、舌の根が乾かないうちに好きになっちゃいましたなんて、恥ずかしくて言えない……


「蓮君は話そうって言ってくれたけど、自分が区長の息子って知られた後じゃ、やっぱり私には会いたくないのかなっとか、色々考えちゃって……」

「話そうって言ってきたんだろ? じゃあ、待っててやればいいんじゃん?」


 何でもないことのように言う桐谷君を、驚いて見つめる。


「今までひた隠しにしてたことがバレたからって、はいそうですかって、簡単に気持ち割り切れるわけじゃないだろ。話そうって思っても、心の準備とか、まあ、いろいろあんだよ」


 はぁーってなんだか盛大にため息をついて髪をかきむしって俯いた桐谷君は、ちらっと斜めに視線を流して私を見つめる。その瞳がなんだか熱っぽくって、ドキッとしてしまう。

 桐谷君は、蓮君の心情を想像して言っているだけなんだろうけど、なんだか自分のことを話しているように真に迫っててどぎまぎしてしまう。

 桐谷君にも、言いたくても言えないこととかあるのだろうか――、そんなことを想像してみて、まあ、誰だってそういうものを抱えているよねって思い直す。


「うん、そうだね。待ってあげるくらいの余裕でいなきゃだめだよね」


 蓮君は「話そう」って言ってくれたのだから、蓮君から連絡してくれるのをおとなしく待とうと思った。



  ※


  ※



 はぐちゃんに知られてしまった――

 その動揺をどうにか隠して、バイトに専念するように笑顔を取り繕う。

 内心に気づかれないように取り繕うのなんて、今までやってきたことがこんな風に役に立ったことに呆れつつ、バイトという身分でパーティーを途中で抜けることもできず、なんとか隙を見つけてはぐちゃんにメッセージを送るのが精一杯だった。


『俺の素性、もう知っちゃったよね――? 今日は帰り遅くなりそうだから、明日、起きたらちゃんと話そう』


 たぶん、というか絶対――

 そこまで考えて、俺を見た桐谷さんのもの言いたげな眼差しを思い出す。あの人が俺を知っている可能性は高い。

 桐谷さんから俺のことをすでに聞いて、俺が誰なのか、なにをずっと隠していたのか、はぐちゃんは知ってしまっただろう。

 そうだとしても、自分の口でちゃんと説明しようという気持ちは揺るがない。

 俺が区長の息子と知って、もしも、はぐちゃんの態度が変わってしまったらと考えると怖かったけど、もう逃げてばかりいるのはやめるんだ。

 はぐちゃんには、“区長の息子”じゃなくて“春原 蓮”として見てほしかったから――

 そのために、俺はどんな努力だってする。

 その覚悟に揺らぎはない。

 早くはぐちゃんに会いたいという急く気持ちに反して、バイトはなかなか終わらないし、家に帰ったのは明け方だった。

 このままはぐちゃんが起きてくるのは寝ないで待ってて、話したい気持ちは強かったが、はぐちゃんは今日も普通に仕事に行かなければならないことを考えれば、朝の貴重な時間を潰すことは申し訳ないし、短時間でうまく話せるかと言ったら自信がなかった。

 はぐちゃんが仕事から帰ってきたら、ゆっくり話そう。

 そう決意して、俺は布団にもぐりこんだ。

 少しの仮眠をとって起きた俺は、自分が使っていた部屋の掃除をして、それ以外にリビングなども掃除をした。

 はぐちゃんとちゃんと話したら、一度は家に帰らなければならないと思うし、こうやって帰る準備をしておかないと、ずるずる居心地の良いここに居ついてしまいそうだったから。

 立つ鳥、跡を濁さずってやつで。

 まあ、もしかしたら、事情を話したら、はぐちゃんに出て行ってって言われる可能性もゼロじゃないとか考えて、想像したことにいちいち傷ついている自分の女々しさに呆れてため息がもれる。

 はぐちゃんの家で生活するのに揃えた荷物もリュックに詰め込んで、っと言っても必要最低限のものだからそんなに量がないからあっさりリュックに収まってしまう。

 いつでも持ち出せるようにリュックを部屋の隅に置いて、バイトに向かう。今日のバイトは早めに上がれる予定だったから、夕飯の買い出しは帰りに済ませようと思いバイト先に向かった俺は、そこにいた父の秘書を見て苦虫をかみつぶす。

 どうやら昨日のパーティーに出席していたことが父の耳に入り、バイト先を知られてしまったようだった。父も自分と同じ大学の出身でその繋がりから情報がいったらしい。そんな初歩的なことにも気づかず、自分の迂闊さを呪いたくなるけど、今更どうしようもない。

 どのみち、家にも帰る決心はしていたし、ただ、順番が逆になってしまったのが悔しいが、仕方ないだろう。

 ここで抵抗してバイト先に迷惑をかけるわけにもいかない。

 家に帰ってくるようにという父の伝言に素直に従う代わりに、戻る前にはぐちゃんの家に荷物を取りにいくことを条件につける。

 大した荷物じゃないから取りにいくことは目的じゃない。

もし、はぐちゃんが家に帰ってきていたら、一言でも言葉を交わしたいという一縷の望みをかけて――

 まあ、天地がひっくりかえりでもしない限り、こんな時間にはぐちゃんが帰ってくるわけがないことは分かっていたけど。

 だから俺はあえて手紙とかを残さず、決意を固めて荷物をつめたリュックを持つ手に力を籠める。

 必ず、はぐちゃんの元に戻ってきて、自分の口でちゃんと説明する――

 廊下に出ると、たまが足元にすり寄ってきて甘えた声を出すので、頭から首筋にかけて一撫でする。たまは一瞬気持ちよさそうに目を細めて、物足りなげに俺を見上げた。




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