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拾った責任、とってよ  作者: 滝沢美月
3月31日(火)曇のち雨
30/35

Vol.30  春原 蓮 side蓮



 公務員の父と家庭的な母、一人息子の俺がいて、ごく普通の家庭で、平凡だけど幸せな暮らしだった。

 俺が小学三年の時、父が区長に当選するまでは――……

 その瞬間、すべてが変わり始める。

 区長がどんな人なのか、なんとなく分かる年齢にはなっていたが、“父親が区長”ということが自分にどんな影響を与えるかまでは分からなかった。

 だから、はじめはそれほどなにっていう変化を感じたわけじゃなくて。

 時々、友達に突っ込まれるくらいで、でも「だからなに?」って思ってた。

 高学年になって、社会科の授業で政治の話になった時に「蓮の父親、区長~」ってからかわれて、その時の先生の表情がなんともいえないものだったのがすごく印象的だった。

 そのくらいの頃から、自分自身ではなく“区長の息子”っていう見方をされるようになったんだと気づく。特に、大人――教師や友人の親からは腫れ物に触れるような扱い方をされて、もやもやとしたものが胸に溜まっていく。

 今になれば、それが、俺に対する態度がすべて区長である父親につながると思った遠慮や危惧などだったのだろうと分かるけど、こども心に、距離を置くような態度やよそよそしさに嫌気がさしていた。

 もともと、俺はわりと優等生で教師からは気に入られていたし、かつ、適度にはめをはずして遊ぶことも出来たから、男子の中ではリーダー的な存在だった。教師を困らせるようなことはしないし、人の輪の中心にいることが多かった。

 それでも、小学六年になる頃には、自分が“春原 蓮”じゃなくて、“区長の息子”というフィルターを通してしか見られていないことに反発する気持ちが強くなっていた。

 地元の中学にそのまま通うことに抵抗を感じて、六年のギリギリで中学受験をすることを決めた。両親も私立に進学することに賛成だったから、トントン拍子に塾に通うことが決まって、まあ、勉強は嫌いじゃなかったから、無事に有名進学校に合格し、私立の中高一貫男子校に進学した。

 私立の男子校は、鳥かごのようにも感じたけど、俺はわりとその環境が気に入っていた。議員の息子や大企業の息子なんてのもゴロゴロいて、俺みたいな存在はそう珍しいものではなくて、教師たちの接し方も手慣れたものだった。

 だから高校までは良かった。

 男子だけの世界で、ある意味、親の干渉も受けず、好きなことをしてこられたと思う。

 父は区長の三期目に入り、真面目に区長の職務をこなしていた。その姿を間近で見ていて、父をカッコいいとも思ったし、大学は親の勧めで経済学部に進んだ。将来、政治家になるかって言われたらその可能性はあまり考えたことはなかったけど、特にやりたいこともなかったから。

 でも、大学に進学すると、自分からは言わなかったのに、なぜか区長の息子だという認知が広がっていた。

 一緒の大学に進学した友人がわりと有名で、そいつと一緒にいることが多かったからかもしれない。

 大学にもなると、興味本位なのか男も女も近づいてくることが多くなって、特に女子から声をかけられることが今までにないくらい増えた。ってか、中高が男子校で女子と関わる事なんて全くなかったからなんだけど。

 とにかく、女子がうっとおしかった。

 自分のことをなにも知らないのに、好きだとかなんだと言われても、なんなんだって思った。区長の息子としか見られていないことに憤りを感じた。

 いっそ、誰も自分のことを知らない遠くへ逃げ出したいとも思って、留学をしたいと両親に言ってみたこともあったが、それは許されなかった。

 尊敬していた父の存在すらもうっとおしくなり、それならばと大学の近くに一人暮らしをしてみても親の存在が大きくついてまわり、なにもかもに嫌気がさしていた。

 だから、あの日――

 歩いていて肩がぶつかったと難癖をつけられて、いつもならそれとなくかわすこともできる喧嘩をこちらから買って、多勢に無勢でやられてしまった――

 その時になって、何事からも目を背けて今まで生きてきたことに気づく。

 喧嘩をしたこともなかったことに気づいて、自分の無力さに泣きたくなった。

 そんな時に声をかけてきたのが――、はぐちゃんだった。




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