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拾った責任、とってよ  作者: 滝沢美月
3月25日(水)晴れのち雨
23/35

Vol.23  知らない顔



 乗り換え駅の駅構内を歩いてて、「あっ」と思って足を止める。


「どうしたの?」


 立ち止まった私に蓮君が気づく。

 家に帰る途中の乗り換え駅は、複数本の路線が乗り入れてて新幹線の発着もあるわりと大きな駅。駅構内には洋服屋や本屋、食料品店、飲食店などが立ち並んでいる。

 実は、昨日、チョコケーキを買ったのがこの駅構内のケーキ屋さんだった。

 さすがにチョコケーキだけをいくつものお店で買うのは大変で、気になっていたけど昨日は買えなかったケーキがあったのだった。

 そのケーキ屋さんの前で立ち止まった私の横に蓮君が立つ。


「ケーキ買う?」

「えっと、昨日はここのケーキは買えなかったんだよなぁって思って」


 昨日買ったケーキだけでもだいぶリサーチできたし、企画書も問題なく進んでいるから、これ以上ケーキの試食をする必要はないんだけど。

 食べたかったのに食べれなかったって思いが、食べたい衝動を膨らませる。

 でも、昨日ケーキたくさん食べちゃったから二日連続で食べるのはダメだよね。

 太りそう……

 ってか、絶対太る!!


「すみません、これとこれとこれとこれとー、あっ、これもお願いします」

「いらっしゃいませ~、かしこまりました~」


 ケーキを買いたい衝動と、我慢しなきゃって自制心との間で戦っていたら、あっという間に蓮君が注文してしまう。

 チョコケーキ以外にもチーズケーキにモンブランにショートケーキにいちごタルトも。カラフルなケーキが店員さんが持った銀トレーに並べられていく。


「あれ、はぐちゃんが食べたかったの違った?」


 困っていると、蓮君が勘違いして、そんな質問をしてきた。


「そういうことじゃなくて……、昨日もケーキ食べたのに、今日も食べるなんていいのかなって」


 色んな意味で……

 ちらっと視線をさまよわせたら、蓮君にさらっと笑顔で言われてしまう。


「はぐちゃん細いんだから、そんなこと気にしなくていいのに」

「うっ……」


 気休めだと分かってても、そう言わせてしまったことが申し訳なくなる。

 私と蓮君が口論(?)している間にも蓮君は鮮やかな仕草でお会計まで済ませていて、ケーキのつめられた箱が入った紙袋を受け取っていた。


「ありがとうございました~」


 店員さんが営業スマイルで言い、私と視線が合うと、ふふっと優しい笑みを浮かべた。


「優しい彼氏さんで、いいですねぇ~」


 本当に心からそう思っているっぽい店員さんににこやかに言われて、困ってしまう。

 えっと、違うんです……

 って言いたかったのに、すでに歩き出していた蓮君に呼ばれて、曖昧に苦笑して蓮君を追いかけた。


「蓮君っ!」


 追いついた蓮君を見上げて名前を呼んだ声は、非難がましくなってしまう。

 私を見下ろした蓮君は、私の表情を見てちょっと困ったように眉尻を下げる。

 私が食べたそうにケーキを見ていたから蓮君が買ってくれた――

 ただそれだけのことで、素直に「ありがとう」って言えばいいのかもしれないけど。

 それはなんだか違うように感じる。でもこのもやもやした感情をなんと説明したらいいのか分からなくて。

 蓮君も、私がどうして非難するような眼差しで見ているのか分からないみたいで、二人の間に重たい沈黙が落ちる。


「……」

「……」


 その沈黙を破ったのは、きゃぴきゃぴとした可愛い女の子達の声だった。


「あれ、春原(すのはら)君だぁー!」

「ほんとだ! 春原君~」

「買い物? お出かけ?」


 ミニスカートをはいたおしゃれ女子三人組が次々に蓮君に話しかける。

 一瞬、“すのはら君”って誰の事だろうって思っちゃったけど、蓮君の事だったみたい。

 そういえば、私、蓮君の名字も知らなかったなって気づく。

 最初に名前を教えてくれた時も「蓮」としか言わなかったし、インスタのアカウントもただの「Ren」だったのだから仕方がないのだろうけど。

 どうやら、彼女達は蓮君の知り合いみたいだけど、蓮君は顔がちょっとこわばっているように見えた。

 まあ、一瞬前まで重苦しい空気だったのだから、それを引きづっているのかなって思ったけど、今はもう笑顔を浮かべていた。

 質問が止まずに次々と話しかけてくる彼女達に対して、蓮君の態度はどこかよそよそしいっていうか、言葉数も少なく一線を引いたような冷たい態度で、違和感を覚える。


「ねーねー、いいじゃん!」


 ちょっと強引な女の子の声に、自分の思考からはっと戻ってくる。

 三人組の中の一人が、蓮君の服の裾を引っ張りながら甘えたような可愛い声でお願いって言ってる。


「他のメンバーもいるけどさ、春原君が来てくれたらみんな喜ぶよっ!」

「お店もすぐそこだからさぁ~、すっごい美味しいお店なんだよっ!」

「ってか、私が春原君に来てほしい~」


 途中聞いてなかったけど、どうやら蓮君にご飯のお誘いみたいだって分かった。

 それに、さっきっから蓮君の服を掴んで甘えるように上目遣いで見ている女の子が蓮君の事好きなんだろうなぁってことも分かってしまう。

 彼女の全身から好意があふれ出しているような感じ。

 蓮君だけしか視界に入っていなかったみたいだった彼女の視線が、ふっと私に向く。

 完全に会話の蚊帳の外にいた私に、いま気づいたって顔で見られる。


「はじめまして、春原君の――……、お姉さんですか?」


 十秒はしっかりためて、にっこり言われてしまった。完全に嫌味だ……

 彼女の後ろで他の女の子たちが「そんなわけないじゃーん、ぜんぜん似てないし」ってコソコソ話してるのが聞こえちゃったし。

 敵視するような視線に、なんと言ったらいいだろうかって迷う。

 本当のことを話すわけにはいかないし、でも、じゃあ、私と蓮君の関係ってなんなんだろう。




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