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拾った責任、とってよ  作者: 滝沢美月
3月25日(水)晴れのち雨
20/35

Vol.20  夕立



 インスタにメッセージが届くなんてことは初めてだったから、誰からだろうと不思議に思いながら開いてみると、送信者の名前は「Ren」となっていた。もしかしてと思ってメッセージを確認すると。


“はぐちゃん、傘持って行ってる? 空やばい! 降りそうだから、傘持って迎えにいくよ”


 「れん」という名前で、私を「はぐちゃん」と呼ぶのは一人しかいない。

 やっぱり蓮君だ、と確信する。

 昨日、たまの写真をインスタにあげている話をした時に、見せてほしいと言われて見せているから、その時に私のインスタのアカウントを見たのだろうけど。

 それにしても、なぜ、インスタのメッセージで連絡してきたのだろうと首をかしげ、よくよく考えれば、蓮君と私はアドレスとか連絡先を教えあっていなかったことに気づく。

 ただ単に、その必要性がなかったというのもあるし。

 その程度の関係だから――ということでもある。

 まあ、別に連絡先を知らなくて今日まで特に不便はなかったから、蓮君の連絡先を聞こうって発想もなかったし。

 そもそも、蓮君がスマフォを使っているところって、ほとんど見たことがないなぁと気づく。

 まあ、私もスマフォ依存症みたいに自宅でも常にスマフォを持ち歩いて片時もスマフォを離さない――なんてことはないから、蓮君がスマフォを身につけていなくても不自然には感じなかったけど。

 そんな私でも、通知が来れば気づくようにリビングにいる時はローボードの上にスマフォを置いているのに、蓮君が家の中でスマフォをいじっている姿を見たことがない。

 気を使って、一緒にいる時はスマフォをいじらないようにしているのか。

 蓮君が夕飯を作ると言った時にレシピはスマフォで調べるから大丈夫って言ってたことを思い出して、私がいない時には普通に使っているのかもしれないとも思ったけど、若者の蓮君が――って考えると、スマフォとの距離が遠すぎる気がして、あえて使わないようにしているのかなって、思ってしまう。

 唯一、蓮君がスマフォを使っているのを私が見たのはお花見に行った時だった。スマフォを持ってはいるということだよね。

 なんだか、また蓮君の謎が深まってつい考えこんでしまって、はっとする。

 ってか、待って!

 蓮君のメッセージに迎えに来るって書いてなかった……!?

 ってか、雨!?

 慌てて窓の外を見ると、さっきまでは雨音がしていなかったのに、今は台風かってくらい大粒の雨が窓ガラスをたたいていた。

 えぇっ!?

 天気予報で夕立あるなんて言ってなかったから、傘持ってきてないよ……

 でも、夕立ならちょっと待てば止むかな?

 あっ、でも、蓮君が迎えに来る!?

 慌ててインスタでメッセージを送る。


“雨って天気予報で言ってなかったから傘忘れちゃった。ほんとにすごい降ってきちゃったね。でも、迎えにきてもらうのは悪いよ”

“大丈夫、もう向かってる途中だから濡れないところで待ってて”


 メッセージを送って数秒もしないうちに、蓮君からメッセージが届いた。

 ってか、蓮君って私の会社の場所知ってるんだっけ?って思って、三連休前日に桐谷君や会社の人と飲みに行くって話をした時に、会社の事を少し話したことを思い出す。その時に、会社名を聞かれて答えたから、それを覚えていたのかも。

 蓮君の記憶力の良さに唖然としつつも、とりあえず帰り支度をすまし、パソコンの電源が切れたことを確認してからタイムカードを押して、まだ残っている社員に挨拶してフロアを出た。

 もうすぐ最寄り駅に着くというメッセージが蓮君から届き、それならと、一階のロビーで待っていることにする。

 エレベーターから降りると、ちょうど、乗り込もうとしてきた桐谷君にぶつかりそうになってしまう。


「わっ、桐谷君!?」


 桐谷君は急いでいたのか、手元のスマフォに視線を落としていて前を見ていなかったのだけど、私の声にぱっと顔を上げてぶつかる寸前で止まってくれた。


「っ、森……」

「今戻り? お疲れ様~」


 帰りの挨拶をしてそのまま横を通り過ぎようとしたら、桐谷君がはぁーっとため息をつく。


「森、メッセージ確認しろよ……」


 呆れた声音に首をかしげると、桐谷君の漆黒の瞳に焦れたような光がきらめく。


「えっ? あっ」


 会社を出る前に桐谷君にメッセージを送っていたことに思い当たる。

 慌てて鞄の中から会社のスマフォを取り出すと、ディスプレイの横で通知を知らせる光がチカチカと点滅していた。

 確認すると、私がメッセージを送ってから一分とおかず桐谷君からメッセージが届いていた。


“もうすぐ帰社するから、待ってて”


 と。




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