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拾った責任、とってよ  作者: 滝沢美月
3月23日(月)雨
18/35

Vol.18  ドキドキがとまらない



 三連休明けの月曜日は調子が良い気がする。特に今回の休みは、飲み会に行ったり、お花見に行ったり、家でまったり映画鑑賞したり。かなり有意義でリフレッシュできた三連休だ。

 まあ、蓮君がいるっていうイレギュラーな要素はあったけど……

 返ってそれも良かったのかな、なんて思えるのだから不思議だった。

 週始まりはわりとやることが多いのに、そんなこんなで本日の業務は滞りなく終えて定時で上がることができたのだけど、家に着くと電気が消えていて、あれっと首をかしげる。

 今日も蓮君が夕ご飯を作って待っててくれると言っていたのに、家に蓮君の姿がなくてどうしたのだろうと心配になってしまう。

 うちに来てから蓮君が一人で出掛けたのは出会った翌日だけで、その後は三連休に入ったから、ほとんどずっと家に一緒にいた。

 どこかに出掛けているのだろうけど、正直、それを私に知らせる義務は蓮君にはないし。

「ただいま」と言って迎えてくれる蓮君の姿がないことに少しの寂しさと、これがいつも通りなのだという平穏感とがないまぜになる。

 にゃ~んと鳴くたまも、どこか寂しげな気がしてしまう。

 リビングに入り電気をつけると、ダイニングテーブルの上にメモ書きが置かれていることに気づく。


“はぐちゃんへ 

 出かけてきます。帰りは少し遅くなるかもしれません。夕飯はシチュー作ったから食べてね”


 メモ書きの字はすっきりとした綺麗な字で、蓮君は見た目だけでなく字も端正なのだと感心してしまう。

 それに、こんな風にメモ書きを置いていく蓮君はやっぱりいい子だなぁ。

 こんなにいい子が、どうしてあの日、あんな場所でケガをしていたのか……

 刃物みたいな鋭い眼差しはなにを見据えていたのか……

 ちぐはぐな印象がどうにも結びつかなくて、色々と蓮君のことを考えてしまう。

 コンロの上に置かれた鍋の中にはおいしそうなクリームシチューがたっぷり入っていた。キッチンカウンターにはカット済みのバケットがビニールに入って置いてあって、そこに“冷蔵庫にサラダもあるよ”ってメモがついている。

 冷蔵庫を開けると、ガラス皿にカラフルなサラダが盛られてラップがかけられていた。

いたれりつくせりな感じに申し訳なく思いつつも、ありがたく蓮君が作ってくれた夕飯をいただいた。

 夕飯を食べ終えて流しでお皿を洗いながら、ふっと昨日のことを思い出してしまう。

 そういえば昨日は――

 三本目の映画を観ている途中で、急激な眠気に襲われて抵抗むなしくそのまま朝まで寝てしまったのだった。

 映画館で観た友達から、序盤は眠気に襲われて寝てしまったと聞いていたけど、映画館の中は真っ暗だからだろうくらいにしか思っていなかったのに。

 まさか、家の明るいリビングで観ていて睡魔に襲われるとは思ってもみなかった……

 別に前日に夜更かししたとかじゃないし、特別眠かったわけでもないのに、ナレーターの声が癒し系すぎて睡魔が襲ってきたのだと思う。

 それにしても……

 朝、起きたら、自分の部屋のベッドで寝ていたのだから、さらに驚きだった。

 思い返してみると、寝入ってしまった意識の中で、ふわふわと誰かが運んでくれたような気がしないでもない――

 自分で部屋まで歩いていったのでないなら、誰か――なんて、一人しかないない。

 つまり、映画を観ている途中にリビングで寝てしまった私を蓮君が抱えてベッドまで運んでくれたのだろう――

 朝はバタバタしててそのことに気づいている余裕もなかったし、蓮君もいつも通りだったから気づかなかった。

 あぁ……

 気づいてしまったら、恥ずかしすぎて穴があったら入りたい。

 それと同時にドキドキしてきて困ってしまう……

 今、蓮君が近くに居なくて良かったと思ってしまう。

 はぁーっとため息をこぼした時、洗い物のためにまくっていた袖がずり落ちてきてしまい、あっと思った瞬間。

 背中に触れる温かなぬくもりと、ふわっと包まれるようにまわされた腕が横から伸びてきて、ずり落ちた袖口をくるっと折ってまくりあげられる。

 びっくりして振り仰げば、すぐ後ろに立った蓮君の鮮やかな瞳が間近にあって、息をのむ。


「はぐちゃん、ただいま」


 にっこり微笑んで言われて。

 だけど、今の状況に、頭がついていかない。

 ただ、落ちてきてしまった袖を濡れないようにまくってくれただけなんだろうけど、蓮君に抱きしめられるような格好で至近距離から見つめられて、かぁーっと頬に熱が集中する。


「お、おかえり……、蓮君……、袖、ありがと……」


 どもりながらそう言うのが精一杯だった。それなのに。


「どういたしまして。シチュー、味どうだった?」


 蓮君は私の後ろに立ったまま、私を囲うように流しの横に手をついて、私の顔を覗き込むようにして聞いてくるから――

 ドキッとする。

 さっきはまだ、袖をめくるためだったからまだしも、いまだに至近距離にいる蓮君に、ドキドキが止まらなかった――




やっと折り返し地点に来ました~


私は袖くる……娘にしてもらってます(^^)

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