Vol.11 優しい同期
「飲んでるか?」
飲み会が始まってだいぶ時間が経った頃、席を移動してきた桐谷君が隣に座った。
酒好きだけどすぐに酔っぱらう社長と真珠さんの二人と猫談義をしてた私は、さっきまでは後輩女子の最近の出来事などの聞き役に徹しつつ、美味しくご飯を食べていた。
みんなはだいぶ酔って盛り上がっていて、そこまで酔っていないのは私と桐谷君くらいだった。
私はお酒はまあまあ飲める方だけど、家に蓮君がいる状況だから、あんまり酔っぱらって帰るのもあれかなって思ってほどほどに飲んでいる。対する桐谷君はお酒にかなり強い。
「飲んでるよ~」
「そ? 静かじゃん、何かあった?」
「えー、おばさんは若い子達の聞き役に徹してただけだよ~」
「森がおばさんじゃ、俺はじーさんじゃん」
「ははっ」
桐谷君が真面目な顔で冗談を言うから、笑ってしまう。
「ほんとにみんなの話を聞いて楽しんでたよ~」
後輩といっても二、三歳の違いだけど、流行に敏感な彼女たちの話を聞くのは新鮮で楽しい発見がある。
それなのに、桐谷君は心配するように奥二重の瞳を細めて探るように見つめてくる。
「ほんとに? 大丈夫か?」
その問いがなにを聞いているのか分かってしまって、桐谷君の優しさが身にしみる。
ぽんっと、大丈夫だって伝えるように桐谷君の腕を叩く。
もうすぐ、おじいちゃんとおばあちゃんが亡くなってから一年が経つ――
あれから一年。長かったような、あっという間だったような日々を思い返して、ちょっと感傷的になっていたのは否定できない。
二人が事故にあった時、最初は突然すぎるその事実を受け入れられなくて、ぜんぜん現実味がなくて。叔母さんが来て葬儀やなんやが終わって、家にいつもいたはずのおじいちゃんとおばあちゃんの存在がなくなって初めて現実を突きつけられて、普段通りの生活が出来ない期間があった。仕事は休むわけにいかないし普通に出勤していたけど、仕事に集中できなくてミスが多かったり――
その時、フォローしてくれたのが同期の桐谷君だった。
桐谷君にはほんと情けない姿見せちゃって、迷惑をかけちゃったけど、いつも嫌な顔せず励ましてくれて、優しい同期に恵まれて幸せだなって感じた。
だから、これ以上心配させないように、感傷的な気持ちを隠して微笑む。
「春のお彼岸だから、明日おじいちゃんとおばあちゃんのお墓参りに行く予定」
「俺も、着いていこうか?」
「ええー、桐谷君も? 大丈夫だって、もう泣かないって決めたから」
「……泣いてもいいんだぞ。森が無理してる方がお祖父さん達だって嬉しくないだろ」
眉根を寄せて真剣な眼差しで桐谷君に見つめられて、その瞳が心配に揺れている。
一年前いっぱい泣いたから、だからもう泣かないって決めた。次は、二人に笑顔で会いに行けるようにってこの一年頑張ってきた。
だから、そんな甘やかすようなことを言われたら、くじけちゃいそうだよ。
私は曖昧に微笑むことしかできない。
「それに明日は一人で行くわけじゃないから」
「おばさん、帰ってくるの?」
「ううん、今週は叔母さんの予定が合わなくって一周忌は来月することになってるんだ」
「じゃあ、たまを連れて行くつもり?」
まさかそんなことを言われるとは思わなくて、驚きに目を見開く。
花見に行く前にお墓参りに行こうと思ってたから、蓮君にも寄り道にちょっと付き合ってもらおうと思っただけだったんだけど。
「そっか、たまを連れて行くって発想はなかった! たま連れて行こうかな……」
いい考えかもしれないと思いながら、ビールを飲んでいたら。
「もしかして、一緒に行くのって男――?」
「っ!?」
桐谷君が真珠さんみたいなことを聞いてくるから、飲んでいたビールでむせてしまった。
「なに、言ってるの……、ケホケホッ、そんなわけないじゃん……」