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拾った責任、とってよ  作者: 滝沢美月
3連休の週末 晴れ続き 開花宣言
10/35

Vol.10  猫愛



「出張、お疲れ様で~す!!」


 ビールジョッキ同士をぶつける音と一緒に、みんなが桐谷君に労いの言葉をかけて飲み会が始まった。

 三連休初日で、しかも祝日ってこともあって、すでに予定があった人もいたので、集まったのは八人だったけど、まああんまり大人数でも、奢る宣言している桐谷君の負担になるし、昨日の今日で席の確保も大変だから、このくらいの人数でちょうど良かったのかな。

 桐谷君を囲むように後輩の男子二人、女子二人と私と先輩の真珠さんと社長が座っている。

 席に案内された時は一瞬、「なんで社長が!?」とか思っちゃったけど、桐谷君と社長は大学の先輩後輩だったって話だから、プライベートでも仲が良いのかな? もともと社長って気さくな人だけど、プライベートの飲み会で一緒になる事ってなかったから、ちょっと驚いてしまった。


「桐谷先輩、お土産のチョコレートすっごく美味しかったです! ありがとうございまーす!!」


 後輩女子達が可愛く、桐谷君に出張土産のお礼をしている。個人的に渡したんじゃなくて、会社の皆にってことで自腹でチョコレートを買ってきてくれた桐谷君は、ほんと太っ腹だと思う。私も一つ頂いたけど、ほんと美味しいチョコレートだった。

 そういえば、桐谷君って確かいいとこのお坊ちゃんだって、真珠さんが言ってたなって思いだす。大手ゼネコンの社長令息って言ってたかな?

 私自身、あんまりそういう学歴とかどこの出身とか気にしたことなくて、すっかり忘れていたけど、時々、桐谷君の太っ腹なところに思い出されるっていうか。まあ、お家がお金持ちとかお坊ちゃんだからとか関係なく、今現在桐谷君はそれなりに稼いでいて、自分の稼いだお金で、会社の皆に出張のお土産をたくさん買ってきてくれたり、気軽に奢ってくれたりするのだから、性格が大らかなのだろうな。ほんと、桐谷君は快活で豪気で、魅力的な人だと思う。

 見た目も、うん、申し分なくかっこいいんだよね。さらさらの黒髪と綺麗な奥二重の瞳は少したれてて、でもそのたれた目尻が色っぽくて甘やかな雰囲気をまとっている。背も高いし、ジムに通って鍛えてるって本人がよく言ってて、服の上からでも分かるくらい無駄のない引き締まった体つきをしてる。会話もセンスがよくって、誰とでも気さくに話してその人の心を掴んでしまう。まさに営業職が天職って感じ。その上、お坊ちゃんなんだから、女性にはすごくモテるだろう。


「俺も桐谷先輩みたいに海外出張行きたいっす~。仕事だったとしても、海外行けるなんていいっすよね~」

「ばーか、遊んでる暇なんてないんだぞ」

「っても、仕事ばっかりってこともないっすよね?」

「まあ、リサーチ目的でぶらぶらしたりするけど、観光地って感じのとこには行けないぞ?」

「それでもいいっす! 連れってってくださいよ~」

「そういうことは俺じゃなくて社長に頼むことだろ」

「あっ、社長! 俺も海外出張行きたいです!」


 後輩の男子達と海外出張について盛り上がってる桐谷君を横目に、つい、色々と桐谷君のことを考えていたら、隣に座った真珠さんが尋ねてきた。


「はぐみ、たまと新入りの子はどうなの? 仲良くしてるのー?」


 すでにほろ酔いの真珠さんが、ちょっと絡み酒で私の腰に腕を回してくるから苦笑してしまうけど、たまの事を気にかけてくれる優しさが嬉しい。


「大丈夫ですよー、たまと蓮君は仲良くしてますよ。むしろ、たま、先輩気取りで張り切ってるかな?」

「仲良くやってるのねー、たま懐っこいしねー、って! 新入り、蓮君って名前にしたの!? たまとはずいぶん名前の付け方に差がない? たまって手抜き感丸出しなのにー」


 たまの名づけについてひどい言われようだったけど、それよりも、なんと返答したらいいのかに困ってしまう。


「ええっと、名付けたというかなんというか……。あっ、たまの名前も本当は“たま()”って言うんですよ。でも、たまの方が呼びやすいから」


 昨日、蓮君のことを誤魔化してしまった手前、今更、拾ったのは猫じゃなくて人間の男の子だなんて説明しづらい……

 でも、このまま騙し続けることができるのかなって不安もある。ついボロが出ちゃいそうっていうか……


「森、また猫拾ったんだってなっ!」


 真珠さんにどう対応しようかだけでも困っていたのに、まさかの社長が私と真珠さんの会話に興味を示すとは……


「俺も猫飼いたいんだけどさ~、なかなか機会がないっていうか」

「社長ほどの人なら、ペットショップでも行って可愛い子を選び放題じゃないですか~」

「ペットショップ行くとさぁ、どの猫も可愛くって選べないわけよー」


 真珠さんの突っ込みに、社長が本当に困ったようにこぼす。


「捨て猫でも見かければすぐにでも拾って連れて帰るのに、そういう場面に出くわさないんだよなぁ……。森はしょっちゅう猫拾ってるんだろ……」


 嫉妬の入り混じるような羨ましげな眼差しで社長に見られて、たじろいでしまう。


「……っ、しょっちゅうってわけではないですよ? 今回で二度目だし」


 しかも、そのうち二回目は猫でもないし……

 とは、口が裂けても言えないけど。


「十分だろ! 俺なんか一度もそういう場面に遭遇しないんだぜ? こんなに猫好きなのにっ!!」


 切々と訴える社長、かなり酔ってる……?

 ってか、社長がそんなに猫好きとは知らなかったなぁ……

 困惑と、だけど同じ猫好きということで社長に親近感が湧いてくる。今までは社長という目上の立場に、こちらから積極的に話しかけるのははばかられていたけど、猫愛をとくとくと語る社長がなんだか可愛く思えてしまう。これからは猫情報を共有したりできるかも?


「ええっと、もし次に、捨て猫を拾った時は、かならず社長に声かけますね……」

「おう、森、頼んだぞ!!」

「はーい……」




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