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基本的に龍ヶ峰にいる使用人=私兵であることが多い、割合的にはそろそろ8割に届くだろう。
「何があった」
「緊急ではない重要案件がございます。既に相手を別室に案内しています」
こんな時間に来客なの普通は有り得ないし、ただの一般客を入れたりすることも無い筈だ。
相手の情報をここで話さないのは錬達の耳に入れたくないからだろう。
「わかった、すぐに向かう。錬様、本日は区切りのいい所で切り上げて、月島達を扱くの明日がよろしいかと」
「そうだな、そろそろ日も跨ぐし、明日また再開しよう」
「では私は葵様の方へ伝えに向かいます」
「申し訳ありません、葵様も今回の件でご同行をお願いします」
訓練に参加していた私兵を止め、葵を連れてくるように連絡兵が伝えた。
龍ヶ峰葵が関係するという事は戦争の派遣か、治療目的の可能性が高いのだが・・・その話なら今まで腐る程要請されている。
それ以外、又は+αの要素があるのだろう。
もう今日は疲れたし、さっさと要件を済ませて休むとしよう。
そうして本日の訓練を終了し、葵と合流した後、その相手に会いに行く。
「こんな遅くに来客なんて珍しいわね」
「普段はこのような時間には受け付けていないのですが、少々特殊な相手なのでお二方に対応していただきたく」
「特殊な相手?」
確かに私兵には急な治療依頼は断るように教育されている。
そのように教育されている筈なのに俺と龍ヶ峰葵に話を通すほどの相手
私兵の案内で応接間に向かう。
応接間に入室すると破砕音が響き渡った。
「・・・子供じゃないか」
「鬼?」
「これは確かに個人で判断出来ないな」
部屋では机を叩き割る鬼がいた。
「話が違うぞ、責任者を呼んでくると言った筈だ」
「いや、彼らの判断は間違っていない。お前の要望に俺は応える事は可能だ」
「何だと?」
鋭く睨み付けてくる。その風貌は焦燥、嫌疑、驚きが入り混じっている。
その様子から察するに時間的な猶予は長くは無さそうだ。
「俺の後ろにおられる方が龍ヶ峰 葵様 治癒の異能を持つ方だ」
鬼はガタッと席を立ちあがり、そのまま己で叩き砕いた机の残骸の上で土下座を流れるように行う。
「えっと・・・話を聞きますから土下座をやめさせてくれないかしら」
「・・・ということだ。単刀直入に聞く。治療依頼なのは聞いている、誰の治療で、容体は?」
いくら龍ヶ峰 葵の力が有用だろうとそれには限度がある。
万能ではない、全てが治療できる訳ではない。
そして龍ヶ峰家に対して不利益を被るような事態にならないように相手の素性は確認しておかなければならい。
「・・・治療対象は俺の主だ」
「時間を無為に浪費したいのならお帰りいただいても構わんが・・・いいか?」
こんな夜中 それも終盤とはいえ月島強化訓練の邪魔をされた事
依頼者が鬼であるという点で俺に話を回してきた事に対しては私兵はいい判断を下した。
俺はまだいい、いや、少々キテいるが、龍ヶ峰 葵は家族の時間を何よりも大切にしている。
治療の異能の為、その時間が削減しても聖女のように対応できているのは偏にそれが家族の為になる事だからだ。
勿論、葵だけでなく当主の玄一 兄の錬 妹の凛も家族を大切に思っているが、キレると割とシャレにならないのが葵だ。
その為、俺が先制で威圧しておかなければ、この依頼は消滅する可能性が高い。
「っ!失礼した。我が主の名は森羅、九重 森羅様だ」
「確かにその名前は言い辛いわね」
九重家は現在龍ヶ峰家とは敵対派閥の所属している。
半年ほど前までは龍ヶ峰家よりの中立だったがいきなり龍ヶ峰家との関係を断ってきた。
「ごめんなさい、龍ヶ峰家の敵対派閥を――「葵様お待ちください」何かしら?」
「少し質問をさせてもらってもよろしいですか?」
「まぁ、犬童君がそう言うなら」
俺は少し思案する。
半年前に関係を断ってきたのは間違いない、間違いないのだが不審な点があったのは事実だ。
それまで家を取り仕切っていた人物 九重 森羅が表舞台に登場しなくなった。
世間では龍ヶ峰家と表立って敵対した事でその報復を恐れているとの噂があった。
「鬼 お前の名は何と言う」
「森鬼。主が付けてくださった名だ」
真剣な様子でこちらの問いに応える。
先程断られるのを遮った俺次第でこの鬼 森鬼の主の命運が決まると分かっているからだろう。
「ではシンキ、お前の主の容体は?」
「・・・石化だ」
石化、字の如く身体が石のようになる症状
怪我、病と言うよりは呪い
怪我なら兎も角、病を治療するのはかなり難しいだろう。
「葵様、石化症状を治療した事はございますか?」
「いいえ、今までありませんでしたが・・・病気となると私の異能では厳しいかもしれません」
予想通りの答えが返ってきた。
その言葉に頭を抱える仕草を取る森鬼
「そこで提案なのですが―――」
俺は助け舟を出すと同時にお互いに利益のある話を持ちかけた。




