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色々と酷い試合内容だったが、コイツ等にとって集団戦の失敗は必然だったのかもしれない。
月島が混ざっていたとしても結果は変わらなかっただろう。
その月島がいればもっと講義めいた事をしても良かったが、本人はいないし、別に構わないか。
「交代の30分まで時間はまだまだある・・・というか殆ど経っていない。5分時間をくれてやる、纏まれ」
そうして俺はコイツ等から少し離れて様子を伺う。
勿論会話の内容は聞かないように、理解しないようにする。
まず、動きを最初に見せるのは僕ッ娘だった。
話の進行役、以前の司令塔の経験から限られた時間で話し合っていく。
独裁的ではなく、周りに意見を求めるような立ち回り方をしている。
本来その役目を僕ッ娘ではなく月島に担って欲しかったのが本音だが・・・僕ッ娘の方が適正があるというのも問題か。
初対面に近い年の離れた凛と石神もしっかりと発言出来ている様子だ。
当主にいい報告も出来そうだが・・・凛との稽古が永続化されそうな予感がするな。
観察して考えを巡らせているとあっという間に5分が経過し、向こう側も時間通りに話し合いを終えたようだ。
「残り20分を切った、さっさとかかってこい」
~錬Side~
「素振りやってもらった感じ、初心者ってわけでもなさそうだな」
「はい、実家が道場をやっていまして、そこで格闘技と少し剣術を習っていました」
「その程度ならば素振りは個別で継続してもらって、今は対人戦の経験を積まれるような形でいかがでしょうか錬様」
「ああ、それで進めていこう・・・そういえばお前の名を聞いておこうか」
「ただの下っ端のわたくしめは使用人とお呼びください」
「まぁいい、こっちに葵がいることだし、ちょっと厳しめに行こうか」
月島は以前錬と訓練をしたことがあり、その時は一方的にズタボロにされた経験があり、かなり警戒し防御を中心に構えていたのだが――
「はい、ダメ」
木剣で頭を軽く叩かれた。
以前のボコボコにされたような感じではなく、正確に防御をすり抜けた一撃。
「どうしたんだい?そんな顔して」
「いえ、前回と戦った際と随分違う印象を受けたので」
「ああ、あの時はすまなかったね。犬童と試合が出来ると思うと少し熱が入り過ぎてしまったようだ。今回は剣の指導ということだったから尚更だ」
「錬様は集中すると視野が狭くなり、手加減が出来なくなる傾向がございますのでご注意を」
「・・・わかっている。そうならないように俺も鍛錬している。というかお前も働け、犬童にサボっていたと報告するぞ」
「それは困りますので次は私と手合せしましょう。それと月島様、これは貴方の訓練なのですから防御の訓練なら兎も角もっと積極的になってもらわないと訓練になりませんよ」
先程月島が錬との手合せにおいて防御主体に動いていたのが見透かされて、ドキリとさせられる。
「確かにさっきは守り主体だったな、だが基礎がまぁまぁ出来ているから悪くは無い守り方だ。時間稼ぎなら結構だが、そうでないなら反撃をしなければ、ただのサンドバックだ」
「ですので次は私がお相手します。先程の月島様と同じように守りを致します。反撃もしますのできちんと学んでくださいませ」
「はい、よろしくお願いします!!」
「月島様は防御主体より攻撃主体の方が相性が良いようですね」
「まぁ、コイツの異能を考えればそうだろうな、『加速』はとても応用が利くから攻撃にも防御にも転用は容易だな」
錬と使用人が月島の戦闘スタイルと異能について話をしているが、当人の月島は大の字で転がっている。勿論、葵から回復されているのだが、疲労はどうしようもない。
「月島君の異能は確かに強力な武器ですね、でも自身の身体能力を底上げできればもっと動けますね」
「身体能力はまぁ及第点だな、体術主体ならまだまだ鍛錬不足は否めない」
「錬様の仰る通り、身体作りは継続した方がよいでしょう」
「はい…がんばります」
体術とかには結構自信ありだった月島だったが、錬、葵、使用人たちにはまだまだ鍛錬不足と言われてしまった。
しかし、彼らの本心はかなり好印象である。
「少々辛口に意見しましたが 実の所、月島様の身体能力については時々ヒヤッとさせられる動き、そしてあのキレを見るに潜在的能力は素晴らしいモノを感じました」
「ああ、身体能力だけで言えば既に高いレベルだが、犬童から聞かされていた通り、手合せ中に動きが良くなっている。どこまで成長するか・・・いつか俺の剣の加護の身体能力と並ぶかもしれない」
「月島君の事は犬童君から頼まれて何度か訓練中の回復を頼まれたのですが・・・会う度に動きに違いがはっきりと分かるレベルで成長しているわ、月島君以外もシャルちゃんや赤城ちゃんも目に見えて成長しているわ」
「犬童様の指導が的確であるという事なのでしょうか?しかし、シャル様、赤城様に指導するのは何故なのでしょうか?」
「その事は犬童から聞いた、月島が対抗意識を持っていたから利用しているみたいだ」
勿論月島には聞こえないように話し合う3人であった。




