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という事で石神の友人見舞いの付き添いでやって来た。
そして月島には夕食後、錬にきっちり扱いてもらう手筈になっている。
石神に案内され、見舞い相手の家に到着する。
「ダメもとでのお願いでしたので断られると思っていました。」
「あの後は月島を扱く以外特に予定がなかったのもあるが、人の縁は一期一会 出会いは大切にしないとな」
人脈は本当に貴重なモノだ。
知識・情報と同じだ。
何物にも代えがたい。
「家の前で話し続けるのも外聞が悪い、仲介役を頼むよ」
「は、はい」
そうして相手の家にお邪魔する。
因みに見舞い相手の名前は心 律という
・・・そろそろ名前と能力の関係性を研究してみるのもありかもしれないな。
石神はいつも通っているようで、両親から歓迎されていたのだが、俺を見ると急に雰囲気が悪くなった。
石神が両親に説明している際に聞いたのは、どうやら彼女等が通っている学校の人と間違われたようだ。正確には学校で心 律のイジメに関与した人間として。
結果的には石神の説明で事なきを得た。石神は心両親から絶大な信頼を勝ち得ているようだ。
その後、石神に案内され「コンコン」と心 律の部屋の扉をノックした。
「律ちゃん、今日も来たよ。今日はゲストも連れて来たよ」
返事が返ってきた後、すぐに扉が開いた。
イジメに遭っているという割にはすぐに扉を開けたか、ゲストと言って初対面の相手を連れているというのに警戒されないのは石神に対しての信頼し切っているのが見て取れる。
「えっと・・・言葉ちゃん、こちらの方は?」
「私達の学校関係者じゃないから安心して、他校 高校の先輩です。」
「それは説明しているに入らないからな。私は犬童 雅人、石神さんとの関係は・・・えーー、好敵手の指導をしている事から知り合って・・・それからは少し石神さんの事も含め指導している」
「?」
疑問符を浮かべているのがはっきりわかるような顔をしてしまっている。
正直に言えば俺自身も何でこんな事になっているのかさえ分かっていない。
「俺は龍ヶ峰家に仕えていて、スカウトなどの仕事をしている」
「え!そうなんですか!?」
石神が反応してしまった。
確かに石神の前では全然違う事をしている姿しか見せていないな。
石神がそのような反応を見せた所為で心が警戒を示してしまった。
「正確にはかなりの仕事を振られている。人事、教育、研究だな。俺は君をスカウトしに来た」
「わ、私を・・・ですか?」
「ああ、石神さんからは強い能力と聞いているからね、本人から直接聞いても大丈夫か?」
心の表情が暗い、あまり自身の能力に対して良く思っていないように見受けられる。
能力が理由で周りからの誹謗中傷を受けるという事は有用である可能性が非常に高い。
埋もれているのなら俺が掘り返して有効活用しても何の問題も無い。
「律ちゃん、大丈夫。この人は大丈夫だから話してみよう」
特に打ち合わせしたわけでもないのにこちらに有利に動いてくれる。
友人からの誘導は有り難い。
「わ、私の能力は――――」
心 律の能力は精神操作に近い、完全な掌握はした事が無いと言っていた。
どうやら相手の感情を操作している。相手を攻撃的にさせたり、逆に落ち着かせたり。
条件は相手との距離、更に相手が承諾するのなら感情のコントロールが可能。
心 律自身 己の能力を快く思っていない為、全力で能力を使っていないのではないかと質問をしたところ、怖くて全力を出すことが出来ないのだそうだ。
「私の判断で貴女には十分な素質がある、是非龍ヶ峰で働いてもらいたい。勿論貴女の能力は悪用しない、使用の際には必ず君に使用許可を求め、明確な詳細を伝える。そうだな、今の貴女を龍ヶ峰が雇うとして月給にこれだけ出す事は約束しよう」
そう言って俺は指を3本立てる。
「そ、そんなに頂けるんですか?私はそこまで・・・」
「貴女は自身の価値を理解していない。学校でどんな仕打ちを受けたのかは詳細は存じませんが、たかが学校の有象無象に何を言われようと、貴女の価値はこの俺が保証しましょう。それとは別に確かにいきなり龍ヶ峰に雇われませんか?と言われて混乱するのは理解できます。なので1,2ヶ月お試しでやってみるというのもありです。ご両親と相談してください」
「凄いよ律ちゃん!あの龍ヶ峰からスカウトされたんだよ」
世間一般的に龍ヶ峰というブランドは強い。
様々な業界、事業に手を広げている龍ヶ峰はその全てにおいて上々の結果を出し続けている。
その結果、世間には優良ブランドとして定着した。それが他者から恨まれる事に繋がっているが、現段階では嫌がらせ、妨害工作は全て叩き潰している。
「長居もよろしくないのでそろそろ私はお暇します」
「あ、私も帰る。また明日ね律ちゃん」
その後、心宅前で石神とも別れようと思っていたのだが・・・
「あの、先程の皆さんは泊まり込みで訓練されるんでしょうか?」
「月島は強制、恐らく僕ッ娘と赤城は泊まるだろうな。錬様も葵様も今回は長く休暇を取られている筈なので皆泊まりでしょう」
「あ、あの部外者の私も泊まり込みでの訓練に参加させてください」
翌日また参加する筈だったのだが、話を聞くと泊まり込みでの訓練というのに憧れている。そして家には現在誰も居ないということで、家に戻る意味がない。
「・・・まぁいいでしょう、訓練なのでおもてなしはありませんが、それでもいいですね?」
「はい!!」
石神が参加したとしても特に問題は無い、逆に他のメンバーの火付け役になってくれるかもしれない。




