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俺は教室に辿り着いて一息つく。
「お疲れさん」
「有良か・・・なぁ有良、どうしてくだらない事で簡単に決闘が起こるんだろうな?」
「それはお前さんが一番理解してるだろう?」
分かってはいるがあまりにも短絡すぎて溜息が出る。
どいつもコイツも短絡的な行動する奴ばかりだ。
「分かってはいるが・・・理解ができない」
「まぁ、乙女心を理解するのは難しいからな」
「知りたくもないな」
「何が知りたくないんだい?」
月島が来ていた様だ。
「おはよう月島君」
「おはよう小崎さん、僕の事は呼び捨てでいいよ、それより何の話してたの?」
「女子の考えは理解できないという話だ」
「乙女心の話だよ」
・・・・・・・
「とりあえず女の子の話なんだね」
「まぁ、そんな感じだな」
今までの行動から月島は女子に対する負の感情を持ち合わせていない。
ならコイツは何故行動しているのだろうか?
「そういえば生徒会に入るとか言ってたけど何か行動に移したか?」
「いや、実は何したらいいのか分からないんだ」
「え・・月島生徒会に入るのか?」
「うん、この学園を内側から変えていくんだ」
「そ、そうか」
有良が顔を引き攣らせてこちらを見ている
折角の能力者を敵に回してよかったのか と言っているのだ。
確かに戦力を失うどころか敵にまわるのはよろしくない
だがコイツは考えが単純だ。
そしてあまい
そんな奴は必要ない。
「コイツは理想家で更に頑固者だからな 一度言ったら曲げないぞ」
「あはは、そんな頑固かな?」
「ああ、昔俺が将棋を教えてもらった時 散々お前を負かしただろ あの時ムキになって何度も再戦したじゃないか」
そう、コイツは負けず嫌いでもある
将棋の件は鬱陶しくなったからトラウマが出来るまで無理矢理将棋させたっけ…
「あ゛・・・ああ、そういえばそうだったね」
トラウマが脳裏を過ぎったのか顔が真っ青である。
「懐かしいな・・・そうだ、どこまで上達したのかもう一度確かめてみるか」
「いやいやいやいやいやいや、いいって、ほら雅人も忙しいだろ?」
「おいおい、確かに忙しいが久しく昔の友達と遊ぶんだ、時間くらい作るに決まってるだろ?」
「うぅぅ・・・」
「なはは!!諦めろ、コイツを口で負かすなんて無理無理www」
有良をはじめ月島と犬童は自然と笑みが零れていた。
こんな微笑ましい事はそう長くは続かないとわかっていた。
いつも通りに授業を受けながら教室の様子を眺めていた。
クラスの連中 いや、この学校は月島の転入の件で注目がいっている。
今なら少し行動に移せるか?
なら早い段階がいいな、今日・・・だな。
放課後に入ると月島から生徒会について相談されたので、とりあえず生徒会室に行くようにと助言した。
生徒会の様子も、どうすれば生徒会役員になれるかも聞けるだろう まぁ正攻法だな。
それから帰宅し、龍ヶ峰の屋敷に向かう。
いつもなら掃除やら雑用をこなすのだが今回は当主の部屋にお邪魔する。
「やぁ、待っていたよ」
「お待たせして申し訳ありません」
「いや、高校からの距離を考えると早い時間帯さ」
龍ヶ峰の当主 龍ヶ峰 玄一である。
彼はこのご時世数少ない男の権力者だ。
男は能力が使えない理由から劣等視され、龍ヶ峰以外男の権力者はいない。
それは彼がずば抜けて優秀だからである。
「そろそろ1人で出来る事が増えてまいりました。前回にも話していましたようにここを出ようと思います。」
「別にここに居てもいいのだぞ・・・ご両親から自身に何かあったら二十歳まで面倒を見てやってほしいと頼まれていた。君の両親とは親友だ。そんな子を邪魔になんて思っておらんよ。きみ自身にも助けられているしね」
「いえ、あんな事で返せる御恩とは思っていません、いつか必ず返します」
「いや、政府から向けられた刺客を倒した事をあんな事で済ませるんだ・・・」
優秀な彼には敵が多い、女尊男卑の世間からは疎まれる。
女に支配された政府は彼に刺客を送り込んだ。
丁度犬童が彼の仕事を見学し、学んでいた時期と重なるのだ。
勿論、犬童の奥の手を手に入れた時期にも重なる。
「研究所では戦闘データが取れませんから刺客が現れて丁度良かったです、それに彼ら・・いえ、彼女らは大いに役に立ってもらっています」
「魔法の解明だったね、まぁ、私も刺客から得た情報で政府に貸しを手に入れられましたし一石二鳥だね」
「ええ、近い内に面白い物が出来上がる予定です。試験を重ね完成次第お送りします。」
「楽しみにしていよう」
「では、今までお世話になりました」
犬童は頭を下げて屋敷を去った。
その頃、月島は生徒会室に居た。
「そ、そんな・・・まさか雅人がこんな酷い事を・・・」
月島は両腕と両膝を床について項垂れていた。
「編入生 いや、月島君」
生徒会室には月島以外は全員女子である。
その中の1人が月島の名を呼ぶ。
その声に月島は頭を上げる。
「彼は大きな間違いを犯している、友が道を踏み外すのなら友達はその友を正すのではないかね?それが友達と言うものだろう」
「僕が・・・犬童を正す・・・?」
「そうさ、君が正すんだ。犬童の友達である月島がね・・・そうだ、君を風紀委員長代理に任命しよう」
そう言って1人の女子が腕章を差し出す。
「あ、ありがとうございます伊織会長!!」
月島は腕章を受け取り、生徒会室を出て行った。
彼は今から犬童の元に向かうのだろう。
「性格悪いですね会長。数少ない友達、それも親友をアイツに差し向けるなんて」
「ふん、彼には借りがあります。きっちり返して差し上げているのですよ」
「うわぁ・・・完全に前回の仕返しだ」
これから起こる事に談笑している中1人疑問を口にする。
「この事を奴が見落とすだろうか?彼はアレでも能力者です。大きな戦力にもなる彼をみすみすあの狡猾な男が手放すとは思えない・・・」
「まぁ、副会長の言う事ももっともだけど、彼も人間であり完璧ではないのよ」
「まぁ、私の気のせいであればよろしいのですが・・・」
「明日どんな顔をして登校してくるのか楽しみだわ!!」
しかし、彼女らは知らない。
犬童を問い詰めに行った月島がその日会う事が出来なかった事を。