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「・・・この蜘蛛がお前の仲間か」
「きゃん!」
元気よく答えたからにはそうなのだろう。
俺の予想は見事に外れた訳だ。
「とにかく、お前は俺に従う気があるのか?」
蜘蛛に鳴く器官などない、返事を求めるのは間違いだろうか。
しかし、蜘蛛は身体を上下に動かし、頷いているように見える。
意志疎通は可能の様だ。
「このヴィスタと同じ待遇だな。それと厄介者を連れてきてくれたみたいだな」
前に2歩進む
すると背後から風切りの音がした。
「隠密からの強襲、物音を消せない所を見ると素人か お前」
目の前には銀髪 白の鎧を纏った少女がいた。
魔女の類か?あまり見覚えの無い兵装だな。
それにしても鎧か。
通常、鎧は魔女には好まれていない防具なんだがな。
基本、相手の攻撃は躱すのが鉄則、無理なら魔法で防御
その理論なら動きを鈍らせる鎧などは付けず、軽量化された防具が一般的
その一般論を使わない事は何か癖のある相手か。
「―――――――、――――!」
おっと、この国の言語じゃないと来たか、他のメジャーな外国語でもない。
先程の破壊痕の違和感はコイツが付けたモノか。
そして先程の奇襲、言語が分からなくてもこちらに敵意がある態度。
俺はコイツに心当りなど一切無いが、恨まれるような事はかなり心当たりがあるな。その類か・・・又は―――
再度剣が振るわれ、それも躱す。
「俺を知っていて態々近接戦闘とは、舐められているのか」
インファイトに持ち込むため、攻撃を躱した瞬間に懐に潜り込む。
「ッ!?」
相手の動きに不自然さを感じ、飛び退くと鼻先に剣が通り過ぎた。
「二刀流か、その剣どこから取り出したのやら」
二刀流にインファイトは少々分がよろしくない。
相手から目線を外さず、周囲を探る。
まだ周囲の連中にばれていないようだ。
なら早々に片付けるか。
「―――!!」
ヴィスタ達を指さし、何かを言っている。
何を言っているのか、さっぱりわからんが・・・
「敵から目を離すとはいい度胸だな、おい」
目線を外された瞬間から動き始めていた。
顔面を鷲掴みにし、叩き付ける。
結構慣れた攻撃だと、洗練された動きが出来る。。
叩き付けても双剣は手放さない、だから手ごと蹴飛ばして剣を排除した。
「さて、コイツをどうす―――ぐっ!?」
さっき、蹴飛ばした手にナイフの大きさの剣が握られており、その剣は俺の脇腹を刺していた。
勝ったと思った瞬間に隙が生まれる。初歩的なミスを犯してしまったな。
「だがな」
組み伏せている相手の腹に一撃をかます。
たかが刺された程度で俺が動揺すると思ったら大間違いだ。
戦場では日常茶飯事だ。
先程の攻撃で気絶すればよいものを、意識を失わない。
ならば気絶するまで殴るしかないな。
10発程殴ると静かになった。
今までの者達であればであれば2.3発程度で終わるのに中々に粘ったな。
コイツをこのまま放置してもいいのだが、コイツの喋っていた言語が気になる。
しかし、この戦闘があった所で少女を運ぶ姿は確実に通報モノだろう。
「どうしたものか・・・」
刺された個所の応急措置を済ませ、少女を見ながら放置していこうと結論付けようとした時、少女に蜘蛛のヴィスタが近寄る。
蜘蛛は俺を一瞥した後に、少女を蜘蛛の糸で覆ってしまった。
蜘蛛の糸に覆われた少女の上に乗り、俺を見る。
俺の意図を汲み取り、持ち運びしやすくしてくれたのだろうか?それとも蜘蛛の食料として覆ったのか。俺をじっと見ている行動から思うに前者のようだ
「早速役に立ったか・・・蜘蛛でもヴィスタか、頭がいい」
この場に長居は無用なので、荷物を背負い戦場を離れる。
竜のヴィスタは未だに魔女たちと交戦中。
戦況はヴィスタが少し劣性といったところ、時間が経過するごとに魔女共の援軍が到着するだろう。そうなればヴィスタはどう足掻いても討伐されるのは時間の問題だ。
そうして荷物を小脇に抱えながら、龍ヶ峰邸に向かう。
姿は見えないが、子狼と蜘蛛のヴィスタもついて来ているだろう。




