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煙が晴れる僅かな時間を相手から奪ったガスマスクで難を逃れる。
しかし、毒使いっていうのは今までと違う闘い方だったな。
毒使いと戦った事がなかった訳じゃない、むしろ、多かった。
魔法で生み出した毒と言うのは珍しい部類に入るが、毒は現代社会で手間を少々かければ簡単に手に入る物だ。毒殺してくる刺客は大量に存在した。
煙が晴れ、視界が開けてくる頃にガスマスクを捨てる。
視界を著しく悪くするガスマスクをしていては対処判断が遅れる。その遅れは戦闘に至っては致命的だ。
警戒して相手を探る。
しかし、視界に収める事が出来たのは何かが倒れているだけ。
これは囮か、俺を油断させ、至近距離からの毒物投与させる気だ。
俺は周囲を警戒するが周りには人影すらない。
何処だ!?何処から来る!?
気を張っていた俺の耳に俺の勝利を知らせる宣言が伝えられる。
・・・ん?
「まさか・・・あそこに倒れているのが?」
救護班が対戦相手を回収しに来た。
「・・・俺の買いかぶり過ぎか、毒使いだから慎重になり過ぎたか?」
確かに今までの毒使いは気体系の毒物は使用してきなかった。
基本、液体系かそれを染み込ませた刃物タイプの2種が圧倒的に多い。
そもそも気体はその管理が圧倒的に困難である。
・・・もう終わった事か、次の対戦相手について考えよう。
「1回戦は流石と思ったが、2回戦は面白かったぞ犬童」
「・・・何故、錬様がここに?」
「3回戦の相手が俺だからね」
「大学の講義や葵様の付き添いなどでお忙しいとお聞きしましたが」
「ああ、俺も葵もやっている事が一段落してな。帰って来たんだ、そしたら後輩の妹に会ってスカウトされたってわけ」
「よく参加する気になりましたね、錬様にとってこのような行事はあまり好まないと思っていました。」
本物の戦場を経験した事のある人にとってはこんな遊戯は馬鹿馬鹿しいと思える筈なんだが・・・
「そうだな、確かに俺のやっている事からすればお遊びだが・・・犬童、お前が出てくるとなれば話は別だよ。お前との戦いは貴重だからね。二言で返事しちゃったよ」
この人は戦闘狂の嫌いがある。
本人には自覚がないのがこれまた性質が悪い。
龍ヶ峰の長男であることから玄一から最前線には出ず、葵の護衛役として戦場の参加を許されている。
葵の能力が治癒系の魔法に適正がある事から自国他国共に多くの要請を受けている。
治癒系の異能力者でトップを張っている実力の所為か、かなり忙しい毎日を送っている筈だ。
話は脱線したが、葵の護衛役であるにもかかわらず、最前線にちょこちょこ顔を出しているという始末である。
その結果、敵が救護施設に近づく事が過去に3度あり、その3度とも龍ヶ峰家の私兵が秘密裏に処理して来た。その内の2回は俺も参加している時だった。
錬の手には2本の木刀が握られていた。
錬の異能は剣に関するモノで本人は剣の加護と呼んでいる。
この剣の加護ある意味ぶっ壊れな性能をしている。
斬撃は勿論、なまくらな包丁で厚さ5㎝の鉄板を両断、しかも剣の加護発動中は異常な身体能力をも発揮させる。まさにファンタジーと言わしめるモノだった。
「世の中は広いから大学に行って俺と打ち合える奴を探してたんだけど・・・見つからなくてね、まともに勝負になるのは犬童だけだよ」
「何の事でしょうね、確か前に試合した時には2合で持っていた竹刀を持っていかれましたよ?」
「俺にとっては無能力者が一合でも打ち合えたのが異常なんだよ」
「はぁ、話はもういいでしょう。始めましょう」
審判も驚いていた様子で試合開始のコイントスの準備を始めていた。
「俺は木刀使わせてもらうから犬童にも木刀用意した、使うといい」
そう言ってこちらに木刀を投げ渡してきた。
その木刀をコンコンと叩き、木刀に異常な事がないか調べる。
特に異常は無さそうだが・・・やけにしっかりした作りの木刀だな。
「結構高い奴なんだよ、打ち合って折れたら困るからね」
「一応、言っておきますがこれは剣道でも、剣術などの試合ではありませんからね?」
一瞬、ポカンとした表情をしてから笑い出す。
「勿論それは知ってるよ、でも丸腰の相手にこちらが武器を持っているって言うのはちょっと不公平だと思ってね。」
話している内に審判がコイントスを行う。
いや、合図しろよ。
その様子を見て、錬が構える。
「その言動を見て安心しました。変わってないですね」
「俺は犬童が変わっている事を祈っているよ。さぁ、楽しませてくれ」
コインが落ちた瞬間、錬の姿がブレる。
目の前に木刀を適当に構える。
そしてそこに衝撃が襲う。
目の前に錬が俺の木刀を叩いている姿が見えた。
それを認識できた時点で、俺の持っていた木刀が弾き飛ばされる。
勿論、それは想定内の出来事だ。
「期待外れだぞ、犬ど―――が!?」
「こちらは期待通りです」
俺は木刀を弾かれて空いた手で錬の顔面を鷲掴みにする。
そしてそのまま、叩き付ける。そこに追撃で蹴り飛ばそうとしたが、回避されて距離を取られていた。
「おかしいな、ひどく疲れる」
体調は万全とは言えないが、ここまで疲弊する筈がないんだが・・・?
まぁ、心当たりとしてはさっきの試合で受けた毒か・・・
それにしても相手をしているのが俺で良かったかもしれない。
月島と僕ッ娘の場合だと一撃で退場、赤城は・・・炎纏えば勝率1割程度
俺がいなかったらストレート負けが濃厚
これでは月島の実力が大したことが無いと広まり、意味を成さないし、逆に目標に対して遠退く可能性が高い。
「流石親父が見込んでいるだけのことはあるな」




