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相手が気絶したことで俺の勝利が確定したはずなのだが、勝利宣言が行われないということはまだ意識があり、試合続行可能とみなしているのか。
次の相手と言ってしまって恥をかいてしまったか。
一旦は追撃を止めたが再び接近し、蹴飛ばすことにしたが俺の勝利が宣言された。
「おいおい、終わっているなら早めに言ってくれないか。でないと追撃してしまう」
救護班らしき人物たちが相手選手を場外に運んでいく。
その入れ替わりに新たな選手がステージに上がってきた。
「いや~、流石と言わざるを得ないね。これから君の相手をすると思うと冷や汗が止まらないよ」
「お前は・・・確か毒使いだったか」
こいつの戦闘記録は存在しない、主に研究をメインに活動していたはずだ。
そんなメンバーをあえて選んだ・・・毒、なんとなく予想はついてきた。
となると戦闘やこのような無駄話をするのは危険かもしれないな。
「へぇ、私のこと知ってるんだ。なるほど、これじゃあ私が勝つのは無理かなぁ」
「無駄話はそのくらいにしてさっさと始めようか」
「ええ、もうちょっと話そうよ。連戦は堪えるでしょ」
審判役は全く動じず、動く気配がない。
この茶番は審判もグルって事か。
「さっきの試合を見て疲れる要素などなかった。さっさと進めろ」
「・・・まぁ、そろそろいっかな」
その言葉が合図かのように審判が試合開始のコイントスが行われる。
コインが落ちた瞬間に相手が煙幕を発生させる。
俺が先ほど奇襲対策なのか、はたまは元々その作戦だったのか・・・後者だろうな。
煙の色が紫であからさまに毒ですよアピールをしているのでなるべく余裕をもって距離を空ける。
しかし、いくら自身の能力だからといってあの煙幕、毒煙では自身に害が及びすぎる。
自身に害が及ばない毒ガスか?いや、そんなものが開発されれば即座に発表され、俺の目に留まらないはずがない。
であれば、俺ならどうするか・・・ガスマスクが手軽な方法だな。
「?」
煙またはガスの動きがおかしい、また何かしたか・・・?
「このまま動かないのは悪手か」
俺は陸上競技で行うスタートダッシュのポーズをとる。
狙いは煙中央の敵一人
そして相手の後続には生徒会長と未確認の相手二人 この相手に手の内をあまり見せるのは好ましくない。
十分な距離を保ち、スタート準備を整え、あとは機を伺う。
~毒使いside~
私、津島風花は今春闘祭に出場しています。
私自身荒事に全く無縁な生活をしていたはずでした。
そんな私がなぜこんなところに立たされているんだろう?
私の家庭は一般的な貧乏な家庭です。しかし、私の通っている学校は有名な学校で勉強も頑張り、魔法の能力ありということで奨学金を利用して生活しています。
その学校では決闘というシステムがあり、頻繁に荒事が行われています。
私の使える魔法は毒のことから周囲から敬遠されていました。私自身人と関わりに積極的でない性格から孤立するのにそう時間はかかりませんでした。
しかし、魔法の勉強をして自身の魔法 毒について学ぶうちにある可能性を見つけたのです。
毒は用法療法を間違わなければ薬になると。
そうして私は学校にある研究クラブに入りました。
もちろん、最初は周りに溶け込めなかったり、成果が出なかったりしていましたが、とある日に外で不思議な人達に出会い、助言をいただいて成果を出すことができました。
そんな成果を出して生徒会から呼び出しがありました。
部長は部費の増額を期待していましたが、そうではなく春闘祭に生徒会メンバーとして出場するようにとのことだった。
私の役目はある人物の衰弱化させよとのこと。
私の専門分野は毒を使った療法であると進言したのだけれど・・・睨まれたら承諾してしまいました。
そしてその相手が決闘というシステムを利用して荒事の常習犯であることが判明、それだけで卒倒しかけました。生徒会長のアドバイスで決闘中は堂々とした態度で試合に臨めと。
それから徹底して演技の練習をしていました。
そして今、その練習の甲斐あって私の役目は完遂できたといっていい。
生徒会長からその人物を確実に弱らせろとのことで、試合の控えにいる状態の相手を毒状態にさせろとの無茶振りでしたが、何とか方法を考えてきましたが・・・まさか私の相手がそのターゲットとは思いもしませんでした。このことは生徒会のメンバー全員が想定外であったそうでしたが、私的には要求された内容のハードルが急降下しました。
私が使った毒は運動神経を麻痺させる毒、そしてカモフラージュに使った毒、体力を著しく奪うものです。
最初は麻痺毒の毒々しい煙を使いました。その後に体力を奪う毒を使ったのですが、その体力を奪う毒実は煙は無色で臭いもしないという気体でしかも広がりやすい。
自身の毒は自身には影響を及ぼさない・・・ということはなく、安全対策としてガスマスクを着用しています。
自身の撒いた毒の中で私は
「はぁぁぁぁ~~、怖かったよぉぉ~~」
と弱音を吐いていた。
しかし、この時点で私の役目は終えている。
後は如何にして穏便に試合に負けるかだ。
私は無意識に最初の位置から数歩後ろに下がっていた。煙幕代わりにしていた毒が次第に周囲に溶け、気持ち薄くなると・・・
「きゃっ!?」
私は黒い影が近づいて尻餅をついてしまった。
「あれ・・・?」
最後に私が覚えていたのはそこまででたぶん気を失いました。
~sideout~
俺が一撃離脱をしてすぐさま安全圏内に戻る。
それにしてもまさか俺の奇襲に気付くとは・・・もしかするとなかなかのやり手だったのかもしれない。
犬童が先ほど奇襲に行った技術は相手の死角からの攻撃 いや、今回は接触と言うべきか、月島でさえ認識することのできない奇襲の筈だった。
しかし、相手は悲鳴を上げて抵抗した。いや、抵抗と呼べるほどのものではなかったのだが接触する前の俺を認識していたという事実に驚いた。
「さっきの奇襲で決めきれなかったのは痛手だな」
先ほどの奇襲で相手の警戒レベルが上がり、同じ手は使えない。
俺が煙の中に人影を一瞬認識して動いたが・・・まさかアレが誘いだったのか?
今は考えても仕方ない、煙が晴れるまで遠距離で待つしかない。




