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「へぇ、追い付いたんだ。あ、君の異能の事を考えれば容易な事かな」
僕は分断した2人を追い、相手の正面に回り込んだ。
「ええ、先輩の言うとおり容易でしたよ。」
「コイツの異能は厄介ね」
「さぁ、勝負です先輩!!」
異能を発動し、前に踏み出そうとすると 目の前に氷が出現した。
「こ、これは・・・」
「おしいな、あと一歩進んでいれば氷漬けにして終わってたのに」
「早速外さないでよ、アンタの能力ばれちゃったじゃない」
「そうカリカリしなくてもこっちが有利なのは変わらないよ」
先輩たちの言うとおり、あと一歩踏み込んでいたら僕は氷漬けにされ身動きが取れず負けていた。
確かにこれは厳しい戦いになりそうだ。
でも、僕の異能を使っての移動だったらそう簡単には捕まらない!!
僕はすぐさま異能を駆使して氷使いであろう先輩に接近する。
この距離なら近接戦に持ち込める!!
そうして拳を振りかぶるが、その拳が相手に届く事は無かった。
「ッ!?」
拳から鈍い痛みと目の前の景色に皹が入る。
「これは・・・」
「この速さ、異常だね。映像と生では迫力が全然違う」
「それを相手して打ち勝ったアイツは化け物」
月島が拳を向けた先とは別の場所に先輩達が月島の異能の分析を口にしていた。
「何で?さっきまであそこにいたのに・・・」
「あらら、頭の方は残念なようね」
「アイツは一瞬で見抜かれたしな。あー、今思い出しても腹立つ!」
「アイツ?」
「まさか、それにも気付けない程お馬鹿さんなのね」
先輩達に憐みの目を向けられる。しかし、その視線の意味さえ月島には届かない。
「じゃあ、さっさと終わらせて別班と合流しましょう」
「まだ僕が負けと決まったわけじゃありませんよ先輩」
数の不利もあるけど、先輩達は僕の事を何か知っているような素振りだった。
もしかしたら試合前に対策を練られていたかもしれないな。
確か雅人に能力者について話を聞いたような・・・何だったっけ?
実際、犬童が月島に話した内容は能力者の種類の事である。
能力者には主に3種類ある。(※魔法を使う者について)
無から物を作り出すスタイル。周りを利用するスタイル。その他のイレギュラー。
無から物を作りだすスタイルは基本的に力の消耗が激しく、長期的な戦闘には向かない。作り出せる物に関しても可不可な物があり、それは個人差であるとされている。
周りを利用するスタイルは個人に適正のあるものしか利用する事が出来ず、戦闘可能な環境が限られてしまうが、条件が噛み合ってしまえば戦闘継続能力に長け、戦闘能力は他を寄せ付けない者もいる。
その他のイレギュラーはそれに属しない能力である。イレギュラーと言っても数が少ないわけではない。その多くは身体強化の能力が多い。身体強化は低コストで長く維持できることから割と強く見られる傾向もある。勿論身体強化の度合いにも個人差がある。
という話を月島に話したことがあったが、月島は覚えていなかった。
犬童の苦労報われず―――
とにかく、先輩に勝つためには僕の得意な間合いに入らなければどうしようもない。しかし、何か細工をされていて先輩を先程一瞬見失ってしまった。
これに対抗するには・・・
「アイツに対策に温存しておきたかったけど、そんな暇は無さそうね。早々に決めるわよ」
遠方に火柱が立っているのが見えた。きっと赤城さんの炎に違いない。
「ん?これは・・・霧?―――寒ッ!?」
もしかして先輩のどちらかの氷使いは応用力のある魔法だったのか、この冷気もきっと氷使いの仕業だろう。
そういえば、さっき先輩達に近づいた時にあったあの壁は・・・氷だったのか?
でもそう考えるともう一人の能力って何だろう?多分力を温存しているんだ。雅人と勝負の為に。
実際は、月島が思った事は的ハズレである。
魔法使いの種類でいうと彼女達は周りを利用するタイプである。
一人は氷使いで間違いないが、無から有を作り出すタイプではない。空気中の水分を利用して氷を生み出していた。
勿論、空気中の水分だけで氷を作る事は不可能である。その不可能を可能にするのが、もう一人の魔法使いである。魔法の種類としては風に分類されている。
しかし、本人は風を利用した攻撃など威力不足という欠点があったのだが、それ以上に魔法を精細に操作できるという稀有な才能を持っていた。広範囲の空気の水分を集結させていたのだ。因みに本人も気付いていないが、僅かながらも水魔法にも適正があり、水を操る事も可能としている事から氷使いとの相性は抜群にいいのである。
そして勿論、二人とも手荷物として水を持ちこんできている。因みに月島に使った氷は殆どが空気中から使われたもので犬童対策に持参した水を使う予定なのである。
この分析を犬童が聞いていたならば溜息をつかれていただろう。




