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それから翌日は朝から研究所に向かい、仕事を早々に片付ける。片付けると言ってもそれほど大した量ではない。
そして研究所を後にしようとしたところにお嬢様が研究所前で無理やり侵入されようとしていると警備員に報告され、朝からお嬢様の相手をする。
お嬢様を言いくるめ、訓練を少し見てやり、学校があると言って龍ヶ峰邸を出た。
そして学校に到着したのは8:30である。因みに朝7時から行動して余裕を持って学校に到着したかったのだがな。
さっそく月島達の所に向かう。居場所は小崎から聞いているので無闇に探すような手間は無い。
「相変わらずその辺りは抜かりがないよな、本当に通報されても言い訳できないレベルだ」
まぁ、実際マジで通報された事があるのに懲りていない所もまた・・・俺が運よく学校側を言いくるめる事が出来た事からある程度協力的ではある。
さて、小崎の報告通り月島達が見えてきた。
「よぅ、どうやら勝ち進んでいるみたいで安心したぞ」
「雅人!?」
月島と赤城が俺の近くに寄ってくる。
僕ッ娘はその場に留まっている。
「もうアンタのいう用事は済んだのかい?」
「済んだというよりは一息ついたっていう所だ。それで僕ッ娘 足の容態はどうなんだ?」
「ッ!?」
「雅人、一体何を言っているんだい?」
俺の一言で月島は疑問を、僕ッ娘は顔をそむけ、赤城は僕ッ娘を睨んだ。
「おい、シャル 足見せな」
やはりチームには言っていなかったか。
それにその顔色だと完治には程遠いようだ。
俺に近づかなかったのは足の事がバレる事を恐れたからだろう。
僕ッ娘が足を見せるとはっきりと青くなっている個所があるため分かり易い。
そもそもよくこの状態で前回の試合を勝ち抜いたものだ。小崎からの試合動画を昨夜確認していたが、前試合の中盤での接敵で負った怪我と見て取れた。相手も確信犯なのか執拗に足に対する攻撃が僕ッ娘に集中していた。
「その状態での試合はまず勝ち上がる事は無理だろう。辞退しろ」
「そんな!まだやれます!!」
「その怪我を推して試合に出れば悪化するのは目に見えている。その悪化は今後に響く可能性もある。」
正直こんな忠告をする気はないが、俺がコイツ等に命令して春闘祭に参加させた元凶でもある。
それに俺はこの状態に既視感を覚えている。それは龍ヶ峰邸の私兵が無理して使えなくなった奴等にとても似ている。
「たとえ参加したとしても戦力は実質2人だ、勝つ見込みなど無い。予備のメンバーなど用意している訳でもあるまい」
「あ~、それがだな」
「ん?なんだ赤城」
赤城が言いにくそうな雰囲気だったがここは聞いておかなければならないので問おうとするが、月島から予想外の爆弾が投下される。
「実は雅人を予備メンバーに入れてあるんだ」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「ちょっと待て、どこでそんな話になっていたんだ?そもそも俺は参加しないと大分前の決闘で決まった筈だが」
「メインのメンバーには入れてないよ、サブのメンバーに入っているだけだよ」
俺は僕ッ娘および赤城を見る。
「あたしゃさっき知ったよ」
「僕は大会初日に・・・気付きました」
俺が気遣っていた事、それは俺がこのチームにいる事で悪評判を防ぐため、月島が生徒会に入りやすくする為に月島自身の評判をよくするためだ。
この場合、俺が予備にいる事による評判はどうなるか?
答えは簡単だ、今まで対戦してきた相手は犬童が相手するまでもない というメッセージにとられること間違いなしだ。
・・・・・これは完全に悪評判どころではなく、最悪評判ではないだろうか?
俺が遠慮した意味は?僕ッ娘と決闘した意味は完全になくなり、苦労は水の泡である。
「雅人が来てくれて助かったよ、これで4人で試合に臨めば問題ないね」
全く気付きもせず、さわやかにこんなことを言ってのけるこの友人に愉快な殺意を覚えてしまう。
「待って、まだ病み上がりの病人を試合に出すのは―――」
「僕ッ娘、フォローのつもりなんだろうが怪我人のその台詞に説得力は皆無だ」
「うぅ・・・」
現段階で月島自身の強さは証明されただろうが、何分俺が出てこないという侮辱めいたモノがあるからか印象が薄くなっているかもしれない。
この段階で俺が出ないという選択肢のメリットは薄いというより、本来の目的が達成不可能ということが問題だ。そしてそれを台無しにした本人が気付いていないときた。もう笑ってしまえそうな気分だ。
一旦落ち着こう、月島をシバき倒す事は確定として、今この状況での最適解、それは・・・・
「わかった、参加しよう。」
「よかった、これで残りの2試合は何とかなりそうだ」
「まぁ、アンタはアタシを打ち負かした男だから期待してるよ」
「あの・・・無理はしないでくださいね」
全く俺が参加すると言ってから言い放題だな。しかし、ここはしっかりと釘を刺しておかなければならない。
「参加するとは言ったが前線に出るのはお前と赤城だ」
「「え?」」
何をそんなに驚いた顔をしているんだ?
「春闘祭のルールではリーダーの変更は認められないという事は知っているな?」
その言葉に月島と赤城は即座に顔を背ける。
期待を裏切ってくれないその反応にイラっとくる。
「その状況で僕ッ娘が狙われた場合、即落ちの試合終了だ」
「で、でもシャルさんが怪我しているなんて相手チームには分からないだろう?」
確かにそうなのだが、この春闘祭自体が特殊だからな・・・
「だから相手に情報を与える前に倒すんだろうが」
どの道このままいけば決勝は生徒会チームと当たる。
生徒会チームは月島チームの内情は盗聴などで把握しているはずだ、おそらくだがこれから戦う準決勝相手にも情報を渡されている可能性が高い。
あいにくこの場所は人通りが多い事から盗聴器は設置していないだろう。
「それは分かったけど、なら焔さんが防衛に回ればシャルさんも能力が使えるし」
「それの考えも一理あるが・・・お前は2点防衛に自信はあるのか?」
「ムリムリ」
赤城は即答である。そもそも赤城の魔法は防衛には向いていない。攻撃面に特化して防御面に関してはイマイチと言ったところだろう。
Valkyrieから有力者として公表されているメンバーの多くは未発展の者が多く、おそらく組織内の実力者は伏せられているのだろう。
「そしてお前に2点防衛ができる筈もなく消去法で俺だ」
「う、・・・雅人の言うとおりだね」
そこで防衛位やれると言ってほしかったがな、志の低い奴だ。
勿論、そう言ってきても言葉で叩き潰すけどな。
「作戦も決まったところで―――なんだ僕ッ娘」
「実はね、今朝教官や灰崎さん達が試合見に行くって―――どうしたの!?大丈夫!!」
「ああ、大丈夫だ。少々頭痛がしただけだ」
「それは大丈夫じゃないよ雅人!早く医務室へ」
「問題ない、大丈夫だと言った筈だが?」
「―――ッ!?」
月島が俺の腕を掴むので足を踏んで応える。
月島はそれに屈んで己の足をさすっている。
Valkyrieのメンバーが見に来るという事態は問題はない。
そうだ、特に問題はない筈だ。
・・・試合後にあの無敗拳士がこちらに突っ込んでこないか不安要素がある。朝比奈 百々が手綱を握っていればそんな事にならないが・・・まだ時期的には無理があるな。
最悪は月島を生贄に捧げるプランでいこう。




