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そしてその一時間後、点検をする管理者たちが部屋で俺とヴィスタで入れ替わる。
結果から言おう。
惨敗である。
このヴィスタに好きに暴れていい、しかし、巨大化は無しという制限つきだったが・・・部屋を点検するために入った業者は呆然としている。
点検も何も、部屋が様変わりしているからだ。そう、先程までただの無機質な部屋が今では床はアイススケート並に凍りつき、壁、天井も例外もなく凍りつきその所々に氷柱が精製されており、これは点検にはしばらく時間がかかりそうである。
そして俺はボロ負けしたのである。当然魔法を使ってくるとはわかっていたがまさか部屋そのものを作りかえるレベルの物を行使できるとは思っていなかった。
正直に思うがこのヴィスタをこのまま野に放ったら魔女共を駆逐できるのではないだろうか?
だが、それも一時的の事だ。それは悪手だ。コイツは今では、なくてはならない重要な通信手段にもなっている。
とりあえず、先程録画した自分の戦闘の反省をしよう。
そうして自室に向かうと、龍ヶ峰の使いが俺を訪ねているという知らせがあり、会うことにする。
「大変お待たせしました、早速ですがご用件は何でしょうか?」
「当主が直接会って話すとの事でしたので私は用件を存じ上げません、龍ヶ峰邸まで御足労お願いします」
このタイミングとなるとValkyrieに潜入し者の素性が分かったのだろうか?こうして使いを通して報告ではなく直接という事はなるべく書類にも残したくないということかもしれない。
そこまでの相手とは思えなかったんだがなぁ・・・
とりあえず仕方ない、当主がお呼びとあらば行くしかない。
「わかりました、今から準備しますのでこれから向かいますと当主にお伝えください」
そうして使いの者は帰って行った。
俺も早々に準備をしなくては―――
そうして龍ヶ峰邸にて
扉をノックして当主がいる部屋に入る
「来てくれたか、君に2点話す事があってな」
「Valkyrieの侵入者についてでしょうか?」
「話が早いな、侵入者は他学校の生徒だったよ。主犯は榊 裕也という人物だ。そしてその取り巻きに何人もの権力者達の娘がいる」
「なるほど・・・一応確認ですがその権力者たちはこちら側の味方には含まれない方達でしょうか?」
「ああ、然程懇意にしている者達ではないな、これからもね」
「了解しました。それで残りの案件とは?」
何やら言い渋っている、珍しい事だ。この当主は決断するのが早い男だ、俺に言いにくい事のようだが俺を頼るほかないといった感じだな
「その・・・な、私の末の娘が私兵としての訓練を受けたいと言ってきたのだ」
・・・・・・・・・・・・・
「はぁ・・・それで何故自分にそれをお話に?」
「その訓練を君に監督してもらいたい」
「・・・・」
「・・・・」
お互いが沈黙を余儀なくされる。
しかし、聞かなければならない事はいくつかある、質問しなければ
「この件について拒否権はありますか?」
この質問は重要だ。断れない可能性は高いだろうが―――
「残念ながらないな、他に適任者がいるとも思えん」
「上官はプロなのですから教え方も自分より上ですよ?」
俺に戦う術を教え込んだのは上官である。ならば上官が適任と言える。
「ああ、彼は辞退したよ。あくまで自分が鍛える事が出来るのは兵士であり、女の子を鍛えるにあたって知らない事が多すぎるみたいでね」
上官め、上手く逃げやがったな。兵士しか鍛えられないというが俺が最初に鍛えられた際、ただのガキだったに・・・
「しかし、自分は魔法に関する研究をしています。感付かれる危険性があります」
「研究施設のトレーニング施設を使う訳ではない、特に問題無かろう」
「・・・ですが、自分はお嬢様には嫌われていたはずです。指導役には不向きなのは明確です」
「龍ヶ峰の人間たる者、自分の好みで相手にしないという訳にはいかない。いい勉強の機会だ」
くそ、親馬鹿め・・・
諦めるのは俺の方か・・・
「それで鍛錬の開始日時はいつからでしょうか?」
「今から頼みたい」
・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・
「今日は平日です・・・学校の創立記念日ですか?」
「少々込み入った事情があってな、少しの間学校を休んでいる。」
厄介な件な気がしてならない。
しかし、末の娘だからか当主の判断は甘い
「私兵の訓練とは具体的にどのような事をするのか本人は理解しているのでしょうか?」
「まず、理解していないだろうな。主に格闘戦だと思い込んでいるのだろう」
確かに私兵の訓練に近接戦の内容も存在するが、それはある程度仕上がってきた者達に教える内容だ。
本来はもっと地味な内容である。
そして最初に誰もが通る道として身体づくりである。
「知っていると思われますが最初はランニングからです。お嬢様ではすぐに根を上げるかと」
「・・・あれかぁ・・・」
龍ヶ峰当主であろうとも最低限の自衛出来る戦闘力が無ければ話にならないので基礎中の基礎の訓練は参加したらしい。
かなり弱音を吐いたとか・・・
「本人が望んでいる事だ。どうか頼む」
そもそも拒否権がないと言い渡され、そしてこの当主に頭を下げられれば断る事は本当に無理である。
「厳しい訓練の所為であちらから諦める事になっても構いませんか?」
「・・・ああ、それは構わない」
「それと前々から話していた通り今日は自分の友人の試合を行っていますので、そちらにも手をかける事になります。どちらも中途半端にするつもりはありませんが承知していただけますか?」
「それは勿論今日の件は事前に報告があったからね。娘も承知するだろう」
ならばさっさと訓練に根を上げてもらおう。
「では場所は龍ヶ峰邸の訓練施設をお借りします」
「ああ、では頼んだぞ」
そうして俺は当主の書斎から退室した。




