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試合終了後
「な、何とか勝てたね」
全員疲れ果てたかのように控室に僕たちはなだれ込んだ。
そして僕はタブレットに手を付ける。
「何してんだい?」
「一応勝利報告とその・・・どこをどうしたら良かったのかなとか反省点・・・とか。」
自分で言っていてとても情けなくなる内容を僕は言っている。
でも、さっきの試合は決してスムーズに事は運ばなかった。
確かに彼の指示通り相手は守り重視の作戦で来た。そして彼の言う悪手の選択肢を選んできた。悪手ならばそんな事にはならないだろうと無意識の内に考えていた。
そのせいで僕たちはその一人に最初はペースを崩された。そう書いてあったのだ、彼のアドバイスにはきちんと書いてあったにもかかわらず、僕はその可能性を真っ先に排除したばかりにこんな失態を犯してしまった。せっかく彼が僕をリーダーに任せてくれたのに・・・せっかく、彼に見てもらえるチャンスだったのに・・・
「シャルさんが一人で落ち込むことないよ」
「え?」
「そうそう!アタシなんてシャルから聞いた作戦なんて試合中は頭からすっぽ抜けてたんだからさ」
「でも僕がもっとしっかりしていれば―――」
僕は台詞の途中で二人に小突かれた。
「僕たちの中でシャルさんが一番リーダーとしての素質があるって事は二人ともわかっている事だし、僕はシャルさんみたいに誰かに命令したり、作戦立てる事も出来ないんだ」
「そうそう、シャルに出来ない事がアタシ達に出来る訳ないだろう?それにちゃーんと勝てたじゃないか!結果が良ければすべてよしだろ?」
「・・・うん、ふたりともありがとね。」
そうして落ち着いて僕はタブレットに文字を打ち込んでいく。
「次の試合までまだ時間あるし、飯でも食いに行こうぜ」
「そうだね、何か露店みたいなものもあったし」
「二人は先に行ってって僕はコレ仕上げたら合流するよ」
月島と赤城は先に行ってしまった。
それでもしばらく一人で報告書を仕上げていく。
「あ、あはは・・・こんな報告書送ったらどんな酷い顔されるかな・・・でもきちんと報告しなくちゃ!僕たちの練習に付き合ってくれたんだもん」
本当は犬童がシャルや赤城を巻き込んだのであって、決してシャル達が自ら協力して行っている訳ではないはずなのだが、いつの間にかシャルを含め赤城も自ら協力していて犬童からの命令という件は頭から抜けてしまっている。
「改善案とかも返した方がいいかな?そうだよね自分で考える事が大事だって彼は言ってるもんね」
そうして更に報告書にチームの改善案、個人の改善案を書き込んでいき、とても長い報告書になるのは確かだった。
こうして出来上がった物は文字カウントでいう5000文字に届きそうな勢いであった。
「出来た!!送信!!!・・・・あれ?これ今考えたら凄い量なんじゃ・・・」
今更ながら考え直すと彼は忙しいから学校に来れないと言っていた。そんな所にこんな超長文を送ったらまず目を通してもらえるかどうか考えたら・・・・
「まず見てもらえない・・・よね」
どうやら書き直しが決定したようだ。
でも、試合状況の説明から自分たちの失態を彼に伝えるのは先程送った量とある程度上手く削って10行が限界だろう。
そうして僕がどうしようか悩んでいるとタブレットに返信が送られてきた。
「・・・」
僕はどんな内容が帰って来たか気になって、メールを開ける。
「え・・・?」
最初に書いてあったのは労いの言葉だった。
そして内容をきちんと目を通す。
「こんなことをあんな短時間で・・・」
僕が送った内容の反省点を彼は更に具体的に指摘してくれていた。
そして次の試合相手の情報も載っていた。その作戦内容も同様である。
しかし、気になる事柄もあった。
「それが本当なら・・・でもこの内容どうやって調べたのかな?」
シャルが言った内容とは相手選手の情報がとても詳しく書かれている事である。
「考えても仕方ないか、とりあえずこの内容をほむちゃんに知らせなきゃ・・・月島君にはこれは伏せた方がいいのは確かだね」
送られてきた内容に選手控室には盗聴器の類の物が仕掛けられている可能性があるとあった。
作戦内容を話し合う際、月島にはこの盗聴の件は話さないように厳命されていた。
それに対して僕は彼のその対応は的確だと確信した。
僕もこの件を月島君に話す気にはなれない。
月島君はとても正義感が強いタイプだ、その彼がこの件を知った場合、生徒会に講義しに向かう姿が目に浮かぶ。
「彼に会う前の僕も月島君のように動いたんだろうなぁ・・・」
その変化が良い事なのかわからないが僕自身彼と出会ったこと自体後悔していない。むしろ良かったと思っている。
前の僕はここまで堂々とした態度を取れていなかった。それは僕の異能が原因である。
僕の異能は前例がなく、効果としては親しい相手の能力をコピーする事である。
強そうに聞こえるかもしれないが、これには落とし穴があった。
コピーした能力は一時的なものでしかなく、コピーした能力自体劣化版である。コピーするに主な条件が3つある。
まず、自身と相手と親密になる事。その相手から能力のコピーを了承を得る事。コピーした相手から一定以内の距離にいる事。
そんな条件下で唯一コピーさせてくれた相手はほむちゃんだけだった。
それからの私はほむちゃんにくっついて行動した。
周りは僕の事をほむちゃんの引っ付き虫と陰口をたたいていた。
そうしてしばらくしてこの異能以外、魔法も使える事が分かった。
その魔法とは強化である。
使えるのは強化のみで、その強化条件は曖昧なものだった。
僕と触れているモノなら強化する事が可能で、更に固く、更に鋭く、更に柔軟に、とにかくものに合った強化がされていた。
それを僕は異能に対して使ってみた。
結果としては成功だった。
コピー先から得た劣化版はオリジナルとさして変わらない性能を発揮した。
「あの時からかな、周りからの対応が更に酷くなったの・・・」
その事が周囲に広まると僕の周囲の人が近寄らなくなった。
僕にコピーされた相手は能力が薄まるなどの噂が流れた。
コレを俗にいうイジメというものなんだと思う。
それでも変わらず僕に接してくれるほむちゃんには救われた。
ほむちゃんはValkyrieの組織で公に公表されている構成員の一人で、炎使いとしては上位に食い込む言われていた。
それに対して僕は無名の構成員だ。僕とほむちゃんは同じ孤児だ。名前は孤児の頃から決まってあった。
その同期から差をつけられていたのも僕が焦っていた原因かもしれないね。
そんな時にValkyrieから依頼が出た。
僕の所属している組織とは違う組織、『メーディア』
そのメーディアからの依頼だそうで、一匹のヴィスタを取り逃がしたとの報告だった。
どうやらメーディアのお偉い様と教官は面識があって、その伝手から頼まれた。
Valkyrieの構成員もそれなりの人手にて捜索にあたったが見つかる事は無かった。
ヴィスタが学校に現れた事から現場に戻る可能性が0ではない為、学校に入学させる人員は絞られる。そこで白羽の矢が立ったのが僕だった。
最初はとても不安だった。頼れるほむちゃんもいない。でも教官からの指名であれば断る訳にはいかない。僕にとって教官は親なのだから
学校に初めて行った時の事は今でも覚えてる、と言ってもまだそんなに経ってないんだけどね。
なるべく、落ち着きのある女性を装って教官の真似をしてみたんだけどそんなに長くは持たなかったなぁ・・・
なるべく騒ぎは起こしたくなかったんだけど、何だか流れで彼と決闘する事になっちゃった。
それまでに月島君とお友達になれたのは嬉しかったな。
そうして彼と戦うことになって、途中からほむちゃんの力を借りるつもりが、ほむちゃん自身が決闘に参加しちゃうし、滅茶苦茶だったなぁ、でも楽しかったかな。
そのように思い出に耽っていると控室の入り口からほむちゃんが現れた。
「全く、遅いから様子を見に来りゃあ、なに黄昏てんだい?」
「あ、ほむちゃん ここに来るまでの事を思い出したらちょっと感傷的になっちゃって」
「月島の奴も待ってんだし、行こうぜ」
「うん、わかった」
僕はタブレットを置いていくかどうか少し考え、盗聴の件を思い出し、手荷物になるのをふまえて持って行く事にした。




