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「一体何を・・・」
「前の貴女が、無敗拳士の同期なのか、後輩なのか、先輩なのかは知りませんが、今貴女は無敗騎士の上司になったのは事実です。」
「・・・同期だったけど、汐音さんは上司に対して従順でないのは見ていてわかるでしょう」
確かに、あの灰崎という人物はサボり願望、又はサボり癖がある。
そんな人物が従順に上司の言う事を聞くわけがない。
「大体は察せますよ、従順でない所為で貴女に負担が回っていたのは明らか」
「―――ッ!?」
「その負担、元々は全て灰崎のものだった・・・今の上司が貴女なら、灰崎はいずれ堕ちる」
私は考えた、いや、考えてしまった。
私が今まで苦労したポジションは誰も代わりになる事は出来ない。
故に、百々さんが困っている姿を・・・脳裏によぎった。
「・・・しかし、彼女を拘束するのはあまりにもリスクが高い」
「それは見ず知らずの上司ならの話、同期だった貴女なら要領は弁えている筈」
「・・・どうすればいいの」
本来私は彼に対して何故私を指名したのか、そして今までの苦労を仕事として押し付けた彼に対して文句の一言を言いに来ただけだった。
それなのになぜか話はあらぬ方向へと進んでいた。
sideout
何を聞きに来たかと思えば・・・こんなくだらない事だとはな
下らないとは思いつつ、朝比奈の話を聞けばある程度の面倒事をコイツが解決してきたのは明らかである。
「では、灰崎を手玉に取ってみましょうか」
「・・・っ」
あまり時間は取りたくなかったが、ここは少しは友好的な態度を取っておけば後々利用できる。
その後、彼女からの苦労話・・・所謂愚痴を聞かされた。
どうでもいいが、この朝比奈という人物は能力のせいでか知り合いが極端に少なく、少ない知り合いでもこのような愚痴を話せる相手が居なかったそうだ。
何故その愚痴の相手が俺なのか甚だ疑問だ。
「さて、用件も解消したでしょう。ではこれにて失礼します」
「え?今から灰崎さんと会う約束をしていたのでは?」
「・・・約束した覚えはないし、初耳なんだが・・・」
「となるとまた汐音さんが勝手にそう言っているだけ・・・そうだとは思っていましたが」
「既に月島は捕まっている、相手ならアイツだけで十分な筈だ」
月島は灰崎によって扱かれ、着々と力を付けるだろう。
俺との格闘戦よりも魔法を駆使する灰崎の方がスキルアップには最適な相手だ。
・・・まぁ、月島なんぞで満足するような相手ではないけどな。
「残念ですが、ここで君を逃がせば上司としてのメンツに関わるので任意同行してくれますか?」
そうきたか、いずれコイツを利用するのだからある程度友好的に・・・墓穴を掘ったかぁ
「・・・丁度いい、と考えようか」
「え?」
「いえ、あなたが灰崎の手綱を握る時が今だとね」
その後、朝比奈に連れられて組織の訓練室に入る。
完全防備の対戦部屋を覗く。
灰崎が月島、僕ッ娘、赤城を圧倒している所だった。
俺はその戦い方に眩暈が起こった。
俺の教えた戦術はどうした!?
何をバラバラに戦っている。
見た所個人戦や勝ち抜き式ではない事は理解出来た。
だが、これはあまりにも酷いモノがあるぞ。
「どうかされましたか?」
「いや、本当に教え甲斐のある事を忘れていた・・・」
「?」
「・・・すまない、パンチングミットと足に付けるやつはないか?」
「え?一応ありますが」
「それの貸し出しをお願いします、あと大量の水、または水の魔法を扱える人材の手配も。金は出す」
「お金!?別にそれはいらないけど・・・」
「そうか、なら頼みます」
俺はそう言って完全防備の対戦部屋に入った。
そうすれば必然的に俺に視線が集まる。
「雅人いい所に!!」
「先輩私達を殺す気だよ」
「まだアンタとやった方が為になるね」
「おいおい、そんな事言うなよ結構楽しいだろ?それと遅刻したんだから相手してもらうぞ」
コイツ等は灰崎の扱きについて行けなくなったから俺に縋る。
そして灰崎は元々指導するつもりはなく、ただ単に自分が楽しみたいがために暴れているに過ぎない・・・ヴィスタと何が違う。いや、ヴィスタよりも性質が悪い。
「さて、あなたと相手をする約束なんてしてないのですが・・・簡単にわかる嘘は命取りですよ」
「む?そうだったかな?忘れていたよ。あはは!!」
どうやらコイツ等を痛めつけてテンションがハイになっているみたいだな。
だがそれもいずれ終わる。
「少しの間、クズ共の相手は俺がします、あたなはあちらの相手をしてください。」
俺の示した先には俺の指定した荷物と人物の準備が整っていた。
「どういう意味だい?」
「すぐにわかる」
俺の言葉のすぐ後に灰崎の肩が掴まれる。
「灰崎さん、少しお話しましょうか」
「ももちゃん?どうしたの?」
朝比奈はそこから襟首部分の服を掴んで強引に引き摺って行った。
何やら灰崎が騒ぎ立てているが朝比奈は気にする素振りは一切ない。
「た、助かったぁ・・・」
「さて、今回は課題を出す。その課題をクリアできない場合休憩なしのエンドレスで行う。」
「「「え・・・?」」」
「課題は俺を地に這わせる事だ。ただし、回避行動の際の行為は無効とする」
そう言って俺は用意してもらっていた道具を身に付ける。
「ま、雅人。その身に付けている物は何?」
「ああ、これか?一応ハンデとセーフティーを兼ねて俺はボクシングで使うグローブ、そして練習用のグリーヴを使う」
「ああ、怪我対策だね」
「その通りだ、一応確認しておくが、春闘祭までどのくらい時間があるか言ってみろ」
「えっと・・・」
「シャル、いつだっけ?」
「・・・一週間後だよ」
「「え?」」
「赤城はともかく・・・おい月島、お前自分の事だろ?何故試合日程を覚えていないんだ?」
「そ、それは・・・」
「まぁいい、今のお前にはまだ無理だったという事か・・・それと春闘祭にて俺が練習に付き合えるのはこれが最後だ」
まだ一週間という時間があるが・・・俺はその時間は相手が出来ない。
もう少し早い時期に来るはずだったんだがな。
最近、環境が変化したせいか完全に周期が乱れている。
前兆があるだけましか・・・
「ど、どうしてなんだ雅人!?」
「そうだよ、さっきまだ一週間あるって言ったよね」
「そうさ、アンタが居なくてどうやって―――」
「どうやって、ってお前達は俺が居なくては何もできないのか?そうじゃないだろう?俺と会う前までは自分で研鑚を重ねてきた筈だ。」
俺の言葉でコイツ等は俺に依存しかかっていると自覚したはずだ。
それでは俺が困るんだ。
「で、でも急にそんな事を言われても・・・」
「・・・いいだろう、この課題がクリアできたなら一週間は訓練に付き合う。それでどうだ。どの道俺にも用事がある、お前達にかかりきりなわけにはいかないからな」
「わかった。それでいこう」
月島は他の2人とアイコンタクトをして頷いた。
どうやらやる気が出てきたようだ。
本当に・・・困った奴だよお前は。
「じゃあ、始めようか」




