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こうして僕ッ娘達の上官である、べリア教官と遊びではあるだろうが決闘を行う事になってしまった。
担任からの説明を要求されたので説明し、ついでに人払いもしてもらった。
Valkyrieの人間と勝負したなんて広まったら面倒なことになる
「ふ、私から言っておいてなんだが本当に決闘するとは思わなかったぞ」
「自分もこんな事になるなど思っていませんでした」
嘘である。
会ったことない相手しかも敵と言える奴に戦闘に発展する可能性も考えていた。
「では見極めさせてもらおうか」
「では自分は勉強させてもらいましょう」
まずは相手の出方を見る。
相手がどの様な戦闘スタイルをしているか見極めなければ迂闊に攻撃は出来ない。
「最初の威勢はどうした?かかってこないなら、こちらから行くぞ」
俺はそれに身構えて受け答えする 先手は譲ると
「ほぅ、馬鹿正直に突っ込んで来たり、挑発に乗る馬鹿ではないな」
この台詞は赤城に向けられているのだろう。
しかし、赤城は自分の事だと気付いていないのか平然としている。
これは指導する側の苦労がうかがえる。
「これはまた指導し甲斐のある部下をお持ちで」
「皮肉か、まぁ否定は出来ないな。君の様な部下がいればもっと楽になるのだがな」
「勧誘ですか?」
「そう取ってもらって構わない、でもこの闘いでそれなりの実力を見せてもらうのが条件だけだ」
「Valkyrieは全員女で構成されているのではないですか?」
能力者の集まる組織だ、男が入り込むような場所は無いだろう。
Valkyrieの他にAmazones、Artemisなど、他にも存在しているがこれらも無能力者を入れる事はまずない。
「ああ、確かに居ないが入れてはいけないと規則にはない、話は決闘が終わってからにしようか」
「ええ、そうですね」
俺が先手を譲っている事からべリアがこちらとの距離を詰める。
武器はなしか・・・いや、手に何か隠しているな。
べリアの動きは素早い、そして何より鋭い。
スピードでは月島の異能には劣るが動き練度はべリアの方が格段に上である。
いや、比べるのもおこがましい、雲泥の差である。
しかし、様子見なのか 真正面から攻撃 腕を振り手先を当てにきた。
俺は手首と腕を掴み、背中を向け背負い投げ。
べリアは空中で態勢を立て直し、手に隠し持っていた物をこちらに投げる。
投擲物を視認できないが、大袈裟に距離を取って回避する。
「ほぅ、目に見えなくても回避行動を取ったか・・・君のその判断は正しい。」
俺が立っていた場所を注視すると、細長い物がいくつか見えた。
「針、か・・・」
「ご名答、初見相手ならこれを躱したのは君が初めてだ」
「という事は、先程の攻撃で終わらせるつもりだったと?」
「部下達の前だからな、早々に決めておきたっかたのだが・・・どうやら部下たちの敗北はまぐれでも何でもないらしいな」
どうやら先程まで僕ッ娘達の敗因が己の所為だと考えていたらしい。
確かに僕ッ娘達は油断している節があった。
しかし、その油断も赤城との戦闘の際には無くなっていただろう。
「――――ッ」
相手がおしゃべりしている間に走り出す。
今までの攻防で一区切りついた際、毎回僕ッ娘と赤城に目を配っている事から俺から目を離すはずだ。
先程先手はあちらに譲った事からあまり積極的に攻勢に出ないと思っている可能性がある、ならば裏をかきこちらが打って出るべきだが、あちらは針を使っていただけで肝心の能力
魔法については全く使われていない。
それならばこちらが使うのは肉弾戦のみだ。
俺はインファイトを仕掛ける。
様は懐に飛び込んだのだ。
「むッ!?」
鳩尾に重たい一撃を放つ。
が、しかし 当たりはしたもののバックステップにてダメージを軽減されてしまった。
「素晴らしい速さ、そして観察力――いや、洞察力もあるな、奇襲でもされたら一溜まりもないな」
「その割にはきちんと処理されてしまいましたがね」
「そんな事はないさ、重い一撃だったよ」
そんな事億尾にも出さず会話している辺り本当かどうか怪しい物だ。
しかし、俺の考えはハズレだったかもしれないな。先程の隙は誘いだったか。
これはこの人物に対する警戒を2段引き上げなければなるまい。
だが、手応えはあまりなかったとはいえ、ダメージは入っているのだ。
それを表面に出さないのは、ポーカーフェイスが凄いのか、それとも痛みに慣れているかのどちらかだ。
「そろそろ能力使ってくれませんかね?」
「何を言っている?」
「・・・・」
「君が使えないモノを使う訳がないだろう、これは殺し合いではないのだからな」
なるほど、このような遊びの場で能力を使うのは馬鹿馬鹿しいという訳か。
なら俺も手札を切る訳にはいかないな。
お互い無駄に情報を流しはしない。
べリア教官は剣を取り出す。
本格的に能力を使う気は無さそうだ。
「何だ?魔法が見たかったのか?」
「いえ、こちらが警戒していたモノを使わないと言われれば気が抜けるというモノです」
「確かに相手の力を警戒する傾向はいい事だ・・・私の部下もこういう事に気が回れば一人前として認めてやるんだがな」
それは無理な話だ。
コイツ等の様子ではヴィスタとの戦いもまともにしてはいないだろう。
いや、ヴィスタとの交戦を経験していたとしても死闘を繰り広げるほどヴィスタの力は弱まっていたのだろう。
そんな温い生活ではそのような事に気を回す必要が無い限り、コイツ等はソレを身に付ける事は無いだろう。
月島もそれに含まれるからやっていられない。
「・・・これまでにしましょう。」
「?どういう意味だ」
俺は決闘場から降り、隠れるように移動する。
俺が行動に移してから5秒後、決闘場の入り口から女子生徒がわんさか湧いた。
「くっ、こういう事か!!」
どうやら何処からかValkyrieの人間がここに居ると広まっていたらしい。
俺と決闘していた事が明るみになられたら厄介だ。
悪いが僕ッ娘達の教官に犠牲になってもらおうか
俺は決闘場の裏口から出た所でお出迎えを受ける。
「本当に優秀な奴だよ、お前は」
「きゃんきゃん!!」
以前このヴィスタを躾けた時、退避勧告の合図を仕込んでいた。
それを実行した。
正直、仕込んでいた時は役に立たないのだろうと思っていたが・・・
教師からも合図は受けていた。
決闘場というあまり使われない場所でも立ち入りが制限されているのなら気になる輩もいるだろうし、それに今は春闘祭である。
この場所に練習に来る奴らも少なからずいる筈だ。
だから事前に教師に抑えきれなくなる前に合図を送れと言ってあったが、教師からの合図の15秒前にヴィスタからの合図が来た。
教師からの合図が遅かった訳ではない、教師はアレはアレで優秀な男だ しかし、この15秒という差はかなり大きい。
俺の仕込んだ事を正確に理解し、行動できるのは一種の才能である。
ここは素直に誉めてやろうじゃないか。
「今日は長めに散歩に付き合ってやるよ」
「きゃんきゃん!!!!」
尻尾を大きく揺さぶる。
・・・今日は骨が折れるな。




