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騒動

 翌朝、青い顔をしているのはリューネとパーラだった。

 というのも、昨日の夜に三人が一緒にレイズ支部を後にしている姿を多くの職員が見ており、そして一人が出勤時間を過ぎても出社して来ないからだ。


「――それで、昨日はガンガン飲んでいたってことか?」

「す、すみません! アヤが今日も出勤だと知ったのは相当量を飲んだ後だったんです!」

「すぐに止めて水を大量に飲ませたんですけど……すみません!」


 リューネとパーラが目の前で睨みを利かせているヴィルに何度も頭を下げている。


「ヴィル、そこまでにしてください」

「……だがなあ」

「二人はアヤさんが今日も出勤だったということを知らなかったんです。これはアヤさんが悪いんですよ」


 二人のフォローに回ったのはエルフィンだった。


「……まあ、そうか」

「誰かアヤさんの自宅を知っている人はいますか?」


 エルフィンの問い掛けに誰も手を上げなかったのだが、遅れて一人の女性職員が手を上げた。


「あの……私は知ってます」

「アンライムさんは確か、アヤさんとも仲が良かったですね」


 手を上げたのは換金窓口のキミエラだった。


「アヤが子供の頃からの知り合いです」

「でしたらヴィルと一緒に迎えに行ってきてくれませんか?」

「お、俺も行くのか?」

「指導担当としてよろしくお願いしますね」

「……へいへい」


 頭を掻きながら立ち上がったヴィルはキミエラに声を掛けてレイズ支部を後にした。


 アヤの家への道中、キミエラはヴィルに対して色々な質問を口にしていた。


「ヴィルさんはアヤのことをどう思っているんですか?」

「どうって、後輩ですよ」

「それ以上の感情とかないんですか?」

「あるわけないでしょう。そもそも俺は仕事をしにここに来ているんです」

「でも、だいぶ長い時間をアヤと過ごしてますよね?」

「それも仕事です、し・ご・と! だいたいアヤがすぐに仕事を覚えてくれたら他の職員と同じですぐに独り立ちしていましたよ」


 キミエラとヴィル。役職でいえば当然ヴィルが上なのだが、年齢でいえばキミエラが三つ上。

 ヴィルとしては同じような状況は何度も経験しているので慣れたものなのだが、キミエラの性格から強く言うこともできずに話に付き合っていた。


「ヴィルさんっていい男なんだから、アヤにちょっとだけでも好意を見せたらいちころだと思うんだけどなぁ」

「……キミエラさん、俺のことをどんな男だと思っているんですか?」

「えっ? 色男だけど?」

「……もういいです」


 ほとんどの職員相手には口で負けることのないヴィルなのだが、キミエラ相手では打ち負かされてしまう。

 これ以上何かを言っても最終的にはキミエラに主導権を握られてしまうと判断したヴィルは話をさっさと終わらせることにした。


「アヤの家はまだなのか?」

「もう見えていますよ。先にある赤い屋根の家です」


 溜息をつきながら少し早足になったヴィルを追い掛けてキミエラも進んで行く。

 寝ぼけ眼のアヤをどうやって叱り飛ばそうかと考えながら歩いていたヴィルだったが、家の前まで来ると違和感に思い至った。


「……キミエラさん。なんでここだけこんなに地面が荒れているんだ?」


 家の扉の前、その地面が捲れ上がっている。まるで、そこで争いがあったかのようにヴィルには見えている。


「酔っぱらって転んだとか?」

「いや、転んだだけでこんなに捲れ上がりませんよ。……窓から中を覗いてください」

「えっ、ちょっとヴィルさん?」

「アヤ! いるなら返事をしろ……アヤ!」


 ヴィルの様子にキミエラも何かが起きているのだと理解すると裏手にある窓へ駆け出した。


「アヤ! ……くそっ、何かないか?」


 周囲に視線を巡らせたヴィルは日の光に反射する一つの物体を見つけてしまう。


「……これは」

「ヴィルさん!」


 そこに聞こえてきたのはキミエラの声。

 拾った物を握りしめながら振り返ったヴィルは、キミエラの青くなった表情を目にしてしまう。


「ダメ、中にはいないわ」

「くそったれ! 変な事件に巻き込まれたんじゃなければいいが……急いで戻りましょう」


 ヴィルとキミエラは取って返しレイズ支部へと戻って行った。

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