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ドロップアイテム

 転移門に戻ってきた三人はそのまま受付の方へと戻って行く。

 時間はすでに営業中なのでアヤとヴィルはすぐに仕事に戻ることになる。


「そういえば、出てきたドロップアイテムはどうするんですか?」

「あれはお前のだ」

「へぇー、私のなんだ……えっ? ええええええぇぇっ!」


 さらりと言われてしまい流しそうになったのだが、自分のだと言われたことに気がついたアヤが大声を上げる。


「職員をダンジョンに連れて行く時の決まりで、ドロップアイテムはその職員の物になるんだよ」

「で、でも、魔核っていうレアアイテムが出たんですよね?」

「あれもお前のだ」

「……えっと、何に使えばいいんでしょうか?」


 魔石にはモンスターの原動力が残っているのかエネルギーが含まれている。

 ダンジョン管理組合はそのエネルギーを利用して様々な道具を作り出して販売している。

 ただ、それは魔石の使い道であって魔核ではない。

 似た名前のアイテムなので同じようにエネルギーが含まれているとは思っているアヤだが、同じように考えてもいいものかと疑問を感じていた。


「職員の方々は換金する人が多かったですよ」

「そうなの?」


 アヤの質問に答えたのはエルクだった。


「苦労した分の臨時収入だ! って喜んでいる人もいましたっけ」

「臨時収入って」

「だが、魔核の場合は臨時収入くらいじゃ収まらないだろうな」

「……そ、そうなんですか?」


 いったいいくらになるのだろうか。気になってしまったものの、さすがに今のアヤの立場で魔核を換金窓口に持っていけばさらに状況が悪化する可能性が高い。

 ということで、金額の答えを知っているだろうヴィルのことをじーっと見つめるアヤ。


「……」

「……」

「……給料三ヶ月分」

「……へっ?」

「……だから、給料三ヶ月だ」

「…………お、お返しします!」

「なんでだよ!」


 予想外の答えにアヤは魔核をヴィルに押し付けた。


「だって、高過ぎますよ! こんなものを換金したら絶対にまた何か言われちゃいますって!」

「だったら持っておけ。魔核は換金する以外でも宝飾品として使えることもあるし、別の都市に行くことがあればそこで管理組合以外の場所に売ってもいい」

「そんな予定はありません! ……だったらエルク君が貰ってください。それで、換金したらいいと思います」

「いや、それはできません」

「なんでですか!」


 あっさりと断られてしまい悲鳴にも似た声でエルクにしがみつく。


「け、契約でそのようになっているんですよ! 僕はちゃんとした報酬を貰えることになっているので、ドロップアイテムは貰えないんです」

「……そ、そんな~」

「レアアイテムを貰って落ち込むやつなんて、お前くらいだろうな」


 呆れ顔のヴィルはさっさと先に行ってしまい、アヤは魔核をポケットの奥に突っ込んで溜息を漏らしている。


「一応換金所には普通のドロップアイテムを換金しに行ってくださいね。それもないってなったら逆に怪しまれるかもしれないので」

「……そ、そうだね。ありがとう、エルク君」

「いえ。それじゃあ、また何かあったら声を掛けてくださいね」


 そういってエルクも掛け出してヴィルを追いかけていった。

 残されたアヤはトボトボと換金窓口に向かうのだった。


 換金窓口にドロップアイテムを提出したアヤは、手にしたお金を見ながら溜息をついている。

 その様子を見ていた換金窓口の職員――キミエラ・アンライムが苦笑しながら声を掛けてきた。


「お疲れ様ね」

「……はい」

「これでも多い方なんだから喜んでおきなさい。臨時収入よ、臨時収入」


 キミエラはアヤよりも年上で面倒見の良いお姉さん的立ち位置の職員だ。

 アヤの状況を知っていたこともあり声を掛けたかったのだが、窓口が違っていることもあり機会がなかった。


「ダンジョンもだけど、仕事でもよ?」

「……キミエラさ~ん」

「全く、あんたは大人になったと思ってもまだまだ子供なんだねぇ」

「……すみません」


 キミエラがアヤを気にしていた理由はただ面倒見が良いだけではなく、レイズ支部ができる前から付き合いを持っていたからだ。


「今は大変だと思うけど、そのうち落ち着くはずだから気を落とさないでね」

「……ありがとうございます」

「換金窓口だったら私もいるし、みんなもアヤの状況を心配しているからいいと思うんだけどね」


 キミエラの言葉通り、隣の窓口に立っていた職員も冒険者の対応をしながら笑みを送ってくれた。


「私から支部長やヴィルさんに口添えしてみようか?」


 嬉しい提案だったのだが、アヤはすぐに首を横に振った。


「大丈夫です。今はヴィル先輩を信じて仕事をこなしていきます」

「そう? だったらいいんだけど、無理はしないでね」

「本当にありがとうございます!」


 最後には元気な声でお礼を口にして頭を下げたアヤ。

 その姿を見たキミエラは笑みを浮かべて手を振りその場で別れた。


 アヤはその足で事務所に戻るとエルフィンから指示を受けて冒険者登録窓口へ移動する。

 本日も多くの冒険者志望者が並んでいたのですぐに閉まっていた窓口を開けて対応を始めた。


「こんにちは! 本日は冒険者登録でしょうか?」


 しばらくは忙しく動き回っていたアヤと冒険者登録窓口の職員たちだったが、波が落ち着くとアヤはすぐにリューネへ声を掛けた。


「リューネさん! 今日はありがとうございました!」

「……こちらこそ」

「……どういうことですか?」

「な、なんでもないわ!」


 ヴィルの笑顔を独占できた喜びで自然とお礼が口に出てしまったリューネが慌てて声を上げる。

 首を傾げるアヤだったが、今はお礼を述べることが大事だと考えて話を進めていく。


「リューネさんの言葉のおかげで覚悟ができました!」

「ダンジョンに向かうことなんて当たり前なんだから、これくらいでお礼を言っていたらこれからが大変になるわよ」

「それでもお礼を言いたかったんです!」


 笑顔のアヤに見つめられたリューネは照れ隠しなのか視線を逸らせてしまう。

 そこにちょっかいを掛けてきたのはパーラだ。


「素直になりなよー! リューネちゃんも心配してたじゃない!」

「パーラは黙りなさい!」

「そうだったんですか? ありがとうございます!」

「し、心配なんてしてないんだからね! か、勘違いしないでよ!」

「うっそだー!」

「パーラ!」


 窓口に立ちながらキャッキャと話している姿に冒険者たちは一時の癒しをもらっている。

 そんなこととは気づいていない三人は話を続けようとしたのだが――


「そこ! 仕事しろよ!」

「「「す、すみません!」」」


 ヴィルの一声で背筋を伸ばして窓口に張り付いた。

 アヤもすぐに自分の窓口に移動したのだが、まだ誰も並んでいないこともあり横目でリューネとパーラを見る。

 逆側に立つパーラもこちらを見ておりお互いに笑みを浮かべ、間に挟まれているリューネは苦笑する。

 声は出さないまでも、これだけのやり取りでアヤは冒険者登録窓口に居心地の良さを感じていた。

 そして、この居心地の良さが下位ダンジョン窓口にもあってほしいと切に願うのだった。

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