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リューネの助言

 誰もいない密室で、以前に敵対心を向けられていた相手と二人きり。

 アヤは、内心でとても怯えていた。


「あの、その、何をしたらいいんでしょうか?」

「……はぁ。あなた、どうせダンジョンのことを聞こうとして断られたんでしょ?」

「へっ? ……えっと、まあ、そうとも言えます」

「下位ダンジョン窓口の騒動はみんなの耳に入ってるからね。あっちに行っても誰も力になってくれないわよ」

「でも、アルバなら……」

「アルバ? ……あぁ、あの男の子ね。あの子なら確かに助けてくれるかもしれないけど、周りが止めるんじゃない?」

「……止められました」


 リューネの指摘通りのことが起きていたので、アヤは肩を落として落ち込んでしまう。


「でしょうね。だから、私が教えてあげるわよ」

「……へっ?」

「だから、私がダンジョンのことについて教えてあげるって言ったの」

「……ほ、本当ですか! リューネさん、大好きです!」

「ちょっと、抱きつかないでよ!」


 下位ダンジョン窓口で酷い扱いをされた反動だろうか、アヤは泣きながら笑顔を浮かべるという器用な真似をしながらリューネに抱きついていた。


「……全く、なんであっちに行ったのか理解できないわよ」

「だ、だって、支部長からアルバとリューネさんもダンジョンに行ったことがあるって聞いて、でもリューネさんとは仲直りできてなかったから」

「それって本人に抱きつきながら言うこと?」

「私、隠し事できないんですよ~」

「……はいはい、分かったから離れてくれるかしら? これじゃあ話もできないし、時間もないんでしょう?」


 冷静にアヤを宥めると、リューネは椅子に座り向かいにアヤが座るように促した。

 ヴィルから三〇分という時間しか貰えていないアヤは素直に座り聞く態勢を整えた。


「いい? ダンジョンに行くなら心構えが大切なの。今のあんたじゃあ護衛は面倒臭いって思っちゃうわよ」

「で、でも、心構えだなんて……」

「まず一番大事な心構えを教えてあげる。それは――生きて戻ってくると言い聞かせることよ」

「い、生きて戻ってくるって……」

「これは冗談でも何でもない、本当のことよ」


 視線を外すことなくはっきりとした口調で伝えてくるリューネに、アヤはごくりとつばを飲み込みながら大きく頷く。


「よろしい。それとね、護衛の人を信頼して言うことをしっかりと聞くこと」

「は、はい!」

「それができれば、後は問題ないわ」

「……えっと、それだけですか?」


 まさか助言がたった二つしかなく、それも全て心構えだけだというのだから驚きだ。

 アヤはもっと的確なアドバイスを受けられるものと思っていたので唖然としてしまった。


「言っておくけど、私たち職員がダンジョンに行くのは冒険者に正しい情報を伝えるためなの。何もダンジョンの攻略を自分の手でやるわけじゃないのよ?」

「それは、そうですけど……」

「自分の仕事を全うする、それだけを考えて護衛について行けばいいだけの話じゃないの。生き残るために自分であーでもないこーでもないって考えていたら、それこそ無駄な時間なのよ」

「む、無駄な時間って」

「だって、生き残る術は本職の冒険者が考えてくれるのよ? 私たちが考えてもいい案が浮かぶわけないじゃないのよ」


 そこまで言われて、アヤもようやくそう思えるようになってきた。

 実際にアヤの仕事はダンジョンの情報を持ち帰ることであり、モンスターと戦うことではない。

 さらにリューネはこう告げた。


「それとね、きっと向かうダンジョンは下位ダンジョンだから安心しなさい」

「……そ、そうなんですか?」

「私もダンジョンには何度か行ったことがあるけど、最初は誰もが下位ダンジョンからなのよ。いきなりど新人を未攻略のダンジョンに連れて行くわけないじゃないのよ」

「……仰る通りです」


 呆れたように呟かれた最後の言葉に、アヤはますます肩を落としてしまう。

 そんなアヤにリューネは普段と変わらない声音ではっきりと告げた。


「ヴィル様が準備しているのよ、問題が起こるはずはないわ。あなた、あれだけ仕事を教えてもらっているのにヴィル様のことを信じられないの?」

「そ、そんなことありません! 私はヴィル先輩を信じています!」

「だったら何も問題ないわ。後はあんたの心構え次第よ」


 そう告げたリューネは椅子から立ち上がると扉の方へと向かう。


「あの、リューネさん?」

「そろそろ時間じゃないのかしら?」

「えっ? あっ、本当だ!」


 慌ててアヤも立ち上がると扉を開けて廊下に出る。

 そのまま事務所に戻ろうとしたアヤだったが、ふと立ち止まりリューネへ振り返る。


「……何よ?」

「あの、どうして私にダンジョンについて教えてくれたんですか?」


 アヤの中でのリューネは、いまだに仲直りできていない相手のままだ。

 そんな相手がどうしてここまでダンジョンについて教えてくれたのか、それが疑問のまま残っていた。


「……私は、仕事のできる相手と仕事をしたいのよ」

「……えっ?」

「……ほら! さっさと行きなさいよ! 時間ないんでしょ!」

「あの、は、はい! リューネさん、ありがとうございました!」


 最後はまるで追い立てるかのように大声を上げてアヤを見送ったリューネ。

 その表情はまるで妹を見守る姉のようであった。

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