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時間を食べるバク  作者: 花咲 潤ノ助、檜慈里 雅(リレー小説)
9/50

9 タイムオフ (花咲)

 初めて正社員として働けるはずだった職場に、一度も立つことが出来なかった悔しい思いが湧きあがってきた。


 勿論「ジャンプ」の課長にも、時間が飛んだという話を必死で訴えたが、聞く耳を持ってくれない。


「おいおい、寝坊の言い訳をするなら、もうちょっとましなことを言ってくれよ。っていうか、言い訳要らないから、仕事してよ」


 それはそうだ、私の話は明らかに矛盾している。


 昨日も一緒に働いた人間から、2年も前からの記憶がすっぽりないと言われても、俄かに信じられるものではない。


 働いているメンバーに知らない顔はいくつかあったが、勝手知ったる「ジャンプ」の仕事なら、2年分の記憶がなくても困ることはほとんどなかった。




 酔っぱらって記憶がなくなった経験のある人ならば分かるだろうが、時に人は記憶がない状態でも、ある程度普通に周りに合わせた行動をして、きちんと家に帰って寝る、という離れ業を行うことが可能だ。


 翌日に同席したメンバーに聞いても、普通でしたよ、と言われたりもする。


 だが、2年間もそんな状態が続くなんてことはあり得ない。しかも、記憶の断片すらないのだ。




 埋められない違和感に苛まれて、結果として検査入院をしたが、何者かに時間が食われたのだとすれば、入院してどうなるものでもない。


 だったら自分で、その正体を突き止めるまでだ。


 気のいい高森を道連れに、私は自分自身の時間を取り戻す挑戦をする覚悟を決めたのだ。


「もし時間を食われたっていうなら、お前の時間が食われたこの2年間、正確には2年と1週間もの長い間存在していた、そこにいたお前じゃないお前は一体誰だったんだ?


俺だって、その間に何回かはお前と会ってるんだ。違和感を感じたことは一度もない。


俺が会って話したお前は一体誰なんだ?そしてそいつは今どこにいるんだ」


 高森の話を聞きながら、私は別のことを考えていた。


「なあ高森、もう一回『タイムオフ』のあった場所を見てきていいか?」


「田平。大丈夫か?」


「ああ、もう大丈夫さ」




 高森と私は、高森の車でリサイクルショップ「タイムオフ」があった国道沿いの商業用地を訪れた。


 ここにはファミリー向けのいくつかの飲食のチェーン店、ドラッグストアやホームセンターなどが軒を並べている。


「タイムオフ」は衣料品を始め、ゲームソフトやCD、DVD、古本や漫画、更には家電やPCに至るまで幅広いラインナップを誇り、パチンコ屋のオーナーも十分なマーケティングの末にこの地を選んで開店した。


 開店当初は相当に流行ったらしいのだが、性質の悪い地元のワルガキの溜まり場になってしまったことから客足が遠のきはじめ、警察に協力を得ながら排除活動を行ってどうにかクリーンな店舗にはなったものの、客が戻ることはなかったそうだ。


 商売とは難しい。きれいすぎる水に魚は住めないということだろうか。


 従業員入口だった扉に、テナント募集の貼り紙があった。ここから2年が飛んだんだ。あの日開きたかった扉。


 手を掛けると、取っ手が回った。鍵が開いていたのだ。振り返ると、うなづく高森。


 私たちは空き家になっている元「タイムオフ」の建物に侵入した。

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