表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時間を食べるバク  作者: 花咲 潤ノ助、檜慈里 雅(リレー小説)
8/50

8 三度目の大ジャンプ (檜慈里)

 狂人扱いしてくる白い建物から抜け出した当時、私は26歳になろうとしていた。まず、それが信じ難かった。


 何故か?私の記憶は、23歳の終わりから病院へ行く手前まで、「食べられていた」からだ。




 記憶を辿ろう。


 私は大学を出てから、フリーターをやっていた。それなりに稼ぎはあり、三つの仕事を掛け持ちでこなしながら、そのうち一つは拘らずに職を転々とした。単純に、色々な経験を積めることが楽しかったのだった。


 そうして働くうち、「ジャンプ」の課長から、正社員になれるという話を貰った。


 とは言うものの、勝手知ったる当施設の社員ではない。母体のパチンコ屋が新たに始めるという、リサイクルショップで働いてみないかという話である。


 履歴書を仕上げ、卒業式以来のスーツを着て面接に臨んだ。


 しかし蓋を開けてみれば、最初から採用がほぼ決まっていたような、緊張感のないものだった。他愛もない話ばかりしていたのを覚えている。


 そして正式に採用通知を受け、私は三つのアルバイト先に退職の手続きをとった。特に「ジャンプ」は長く働いていたのもあり、なかなかに楽しい送別会を開いてくれた。


 そう。遠回りしたが、ようやく私の人生もまともなレールに乗り、動き出したのだ。


 高森のほうは、たまに会う度ノルマがきついだの上司が理不尽だの、愚痴をこぼしている。


 私も、そんな本物の社会に飛び込むことになるのか。不安を抱えつつ、私は駅から20分ほど歩き、リサイクルショップ「タイムオフ」の前に立った。


 第一印象が肝心。ネクタイを確認、従業員専用口から店舗へ入る。




 ……ここで記憶は途切れている。




 次の瞬間に見たのは、知らないアパートの部屋の景色だった。当然、私は混乱。ここは誰の部屋だ?何故、こんな所にいるのか?


 不意にベッドの上で、携帯電話の着信音が響いた。それも自分の知っている型ではない。


 とりあえず無視。


 再び着信。無視。


 再び着信。どうする?


 とりあえず出てみようか。私はそれを手に取り、通話ボタンを押してみた。


「もしもし」


「もしもし!おい田平、もうシフトの時間とっくに過ぎてんぞ!寝坊か?」


「は?」


 どうも、その声は「ジャンプ」の課長にそっくり……というか、おそらく本人だ。


 どういうことだ?辞めた職場から、出勤の要請があるとは。


「あの、課長ですよね?『ジャンプ』の」


「当たり前だろ。まだ寝ぼけてんのか?こっちはお前が来なくて困ってんだよ!」


「俺、退職しましたよね?」


「はあ?何言ってんだ!『タイムオフ』が潰れたんで、また雇ってくれ、って言ってきたのは誰だと思ってやがる!」




 ……「タイムオフ」が、潰れた?

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ