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時間を食べるバク  作者: 花咲 潤ノ助、檜慈里 雅(リレー小説)
7/50

7 サイの角 (花咲)

「だからさ!ホントに時間を食われたんだよ」


 私は、見舞いに来た高森を相手に、私の身に起こった自分でも信じられない事実を必死で訴えた。


 もう何人にも同じ話をしてきたが、家族を含めて誰もまともに取り合ってくれない。


 憐れむような目で、精神科か脳神経外科のどっちかで診てもらいなさいと言われるものだから、その親身な意見に従って、脳神経外科で様々な検査を受けていた。


「わかったよ。じゃあお前の時間が食われたっていうのは本当だとしよう。で、一体何に食われたって言うんだ?」


 高森が突っ込んだ。


「そんなのが分ってたら、そいつに言って返してもらうさ。だけど、イメージはあるんだ。何というか『バク』って知ってるか?」


「それは時間じゃなくて、夢を食べるやつだろう。角のない小さなサイみたいなやつ」


「は?角がなかったらサイじゃないだろう」


「バカだなあ、サイったって、メスには角ないだろうが」


「バカはお前だよ、何言ってんだ。サイはメスだって角生えてんだよ」


「まじか?……ってことは、サイって両性具有だったのか……」


「何だそれ。それとこれは関係……おい、高森!話がずれてるよ。今はサイの話をしてるんじゃないだろう。お前と話すといつもこうだ。前だって……」




 学生時代から何度もあった、テーマが行方不明になる議論。


 英語試験の対策で誰にノートを借りるかの話が、何故かクラスの女子の誰がパイパンかを予想する話にすり替わって、女子全員の陰毛想像図という超大作の図表を完成したり、


(これは後に多くの男子の力が集約され、全体の6割まで想像図を実証図に塗り替えられた。残り4割の実証の為に危ない行動をする奴が出てきた為、この図表は焼却処分した)


何か効率のいいバイトってないかなという他愛ない話から、何故か公園のホームレスの仕事を手伝うことになって、完全無給のボランティア生活を春休み中続ける羽目に陥ったりした。


 高森との会話で、そんな昔話を思い出した。どちらも相当に無駄な時間を使った。


 英語の試験は散々だったし(女子にバレなかったのは大きな救いだった。男子と言うやつは信じられると、この時強く思った)、春休みの稼ぎはゼロだった。


 だけど、お蔭で相当笑った。クラスメイト(男)の笑い顔も、ホームレスの笑い顔も、嫌と言うほど見た。


「くくくくくっ……」


 笑いが込みあげてきた。あの出来事があって以来、初めてかも知れない。


 くだらねえな。クヨクヨ考えたって、消えた時間は戻っちゃ来ない。私は、こんなおバカな友達を持ったことに今、初めて素直に感謝した。ありがとうな。


 二人は、時間が飛ぶのは「時間を食べるバク」が時間を食うからだと仮定して、バクが何の為に時間を食うのかを考えよう、ということになった。


 不毛かも知れない。それこそ病気かも知れない。どうせ高森や私の考えることだ。大層な結果は期待できまい。でも、それでよかろう。


 アルバイトの私が入院していなくても、誰も大して困っちゃいない。スッポリ抜け落ちてしまった時間に驚き、慌てふためいているのも私だけだ。誰も気にも留めていない。


 だったら。私は即座に退院の手続きを取り、病院を後にした。

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