表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時間を食べるバク  作者: 花咲 潤ノ助、檜慈里 雅(リレー小説)
6/50

6 二度目のジャンプ (檜慈里)

「アヤさん、ちょっと」


 自分で発した声に、あからさまな狼狽の色が滲んでいた。アヤの、私の体が、だんだんと熱くなっていく気がした。


 ちらと私は時計に目をやる。カラオケルームは3時間とってあるから、まだ半分近くも残っていた。


 私の鼻先すぐのところでシャンプーと、アヤの匂いが交じる。無防備な躯。寝息の音。もうここまで来てしまうと、耐えている意味がわからなくなる。


 ふと私の頭に「エロティカ・セブン」のイントロが流れ始める。据え膳、いただきます。


 そう心のうちで唱えた瞬間。けたたましくルーム備え付けの電話は鳴った。もたれかかるアヤを慌てて起こし、受話器を取る。


「はい」


「お時間、終了10分前になりました」


「は?」


 私は再度、時計を見る。そんな馬鹿な。この一瞬で、1時間以上経過しただと?


「うーん……もう時間?」


 アヤは目をこすり、髪を手櫛で整える。


「まだ全然、歌った気がしないんですけどね」


「寝ちゃってたみたい。ごめんね、せっかく二人で来れたのに。あーあ、あたし歌ってもないのに、寝てたら汗かいちゃった。えへへ」


 私のほうは、時間が再び消し飛んだ、という事実に冷や汗をかいている。


 これが、高森と飲んだあの日から2週間後の出来事だった。




 ……その後は食事をして、まあ何と言うかアヤとはそういう関係になり、しばらく続いたのだけれども、ある日突然彼女は仕事を辞めてしまった。


 理由はわからない。携帯電話も普及していない時代だったから、それで私とアヤの関係も終わった。




 それをうじうじと引き摺ってしまい、何も手につかない有様だったので、就活は完全に失敗。NTTどころか、NNT(無い内定)のまま、私は大学卒業を迎えてしまう。


 ちなみに高森のほうは、在学中いつの間にか不動産の営業職に滑り込んでやがった。畜生め。


 私が大学生活で得たのは、推定Eカップが、実際にEカップであったという確証だけなのかも知れない。流石は三流大である。救いようもないな。




 卒業式も終わり4月。私はアルバイトを掛け持ちで働くようになっていた。深夜の飲食店なんかもこなしていたので、新卒者の給料より稼いでいたのだった。


 しばらくは時が「飛ぶ」ようなこともなく、その異常さを私はすっかり忘れてしまっていた。しかし多忙なフリーター生活を送る中で突如、大事件が起こったのだ。




 病院で脳の検査を受ける羽目になるくらいだから、あれは本当に深刻と言ってよかった。何しろ私という人生の流れから突然、「ある期間」がすっぽ抜けてしまっていたのだから。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ