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時間を食べるバク  作者: 花咲 潤ノ助、檜慈里 雅(リレー小説)
5/50

5 真夏の果実 (花咲)

「とりあえず飲もっか、はい、カンパーイ!」


 ……グッドタイミングだったのか、バッドタイミングだったのかは分からない。


 しかし、もしあのまま肩でも抱いていたら、事態を動かしたのは私ということになる。アヤの正体も分かっていないのに、単なる情動で自分から動くのはリスキーだ。


 店のオヤジには一応感謝ということにしておこう。




「じゃあ、一曲いきますか」


 スーパードライをグッと煽って、リモコンを手元に寄せた。


「よっ、待ってました!日本一!ヒューヒュー!」


 アヤの合いの手。随分古いお決まりのフレーズだけど、アヤが言うととても自然で気分が盛り上がる。


 サザンの歌は知っていても、桑田のモノマネなんてやったこともなかったのに、前回乗せられて歌ったのもアヤの合いの手のせいだった。


 前回は大人数だったのでサザンのデビュー曲をノリ良く歌ったが、アヤと二人きりならこれだろう、と決めて来ていた。


「真夏の果実」


 5年ほど前の、湘南映画のテーマ曲だ。海辺のカフェに行く序章としても悪くない。


 そうだ、この流れでアヤを落とすというのが、算段だったはず。Eカップに惑わされて、自分から手を出してどうする。


 モニターにタイトルが出て、イントロが流れ出した。


「へえ、こういうのも歌うんだね。ヤバイなあ、泣かされちゃうかも」


 拍手をしながら隣のアヤが、こちらを見て聴く態勢に入っている。これはちょっと歌いづらい。仕方なく、立ち上がって歌い出した。




 サザンの歌には、どれも潮の香りがする。そしてそれを歌うと、どんなアップテンポな曲でも何故か切なくなるのはどうしてだろうか。




 決して上手いとは言えない私の歌を、アヤが真面目に聴いている。


 歌い終わると「次これね」と、アヤがすぐにリクエストを入れてしまうので、私ばかりが、サザンばかりを歌うことになった。


「アヤも歌ってよ」と頼んでも、「今日は時雄くんの歌を聴きにきたんだからいいの」と言って、聞いてくれない。




 私が二杯目のスーパードライを飲み終わる頃、ようやくアヤは一杯目のカシオレを飲み終えた。


 歌に集中していたせいか、アヤの変化に気付いていなかったが、頬が真っ赤で、目がトロンとしている。えっ、まさかカシオレ一杯で酔ったとか?


「アヤさん、アヤさん、大丈夫?」


「うん、大丈夫。だから、あたしお酒弱いって言ったでしょ。時雄くんの歌を聴いてたらつい飲んじゃったよ。ホント上手いよねー、うん、惚れちゃうなあ」


「アヤさん、だって前の時は全然素面だったじゃない」


「そりゃそうよ、飲んでなかったもん。ごめんねえ、あたしちょっと横になる」


 アヤはそう言うと、そのまま身体を私に預けて来た。


 ……きったねえ。これ、絶対ダメなやつじゃん。

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