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時間を食べるバク  作者: 花咲 潤ノ助、檜慈里 雅(リレー小説)
47/50

47 アヤとアイの秘密 (花咲)

 高森が私を連れて来たのは、やはり「タイムオフ」だった。


 その前にも小さな出来事はあったが、私の人生がはっきりと変わったのは4年前のこの場所からだ。だから重要な場所と言えば、ここしか思い浮かばなかった。




 久しぶりに訪れた「タイムオフ」は、閉店から2年を過ぎているというのに、恐らくは再販可能な商品が捌けた以外は、依然として閉店当時のまま放置されていた。


 その理由も恐らくは、この「バク騒ぎ」の一端を構成する要素なのだろう。


 何一つ像を結ばない予感だけが走り出す。ここに来たということは、高森が私に会わせようとしている人物は、あの人物に違いない。


「松崎オーナーが来るのか?」


 高森は少し驚いた顔を見せたが、すぐに納得したような顔をして「ああ」と頷いた。


「田平はもう分かっていると思うが、時空というやつは常に一定の速度で同じ方向に進んでいるわけじゃない。


田平の『バク』が未来からやって来て田平に影響を与えたように、そういうことは稀に起こる現象なんだ。田平がずっとそれを受け入れられずに悩み続けてきたのは知っている。


だが、今はそれを是として考えてくれ。稀と言ったが、その度合いを表すなら宝くじで高額当選に当たるよりも低い確率の稀さだ。


そんな稀なことだから、同時に同じ場所に起こるようなことは、ほぼあり得ない。


ところが今回は、そのあり得ないことが起こってしまった。アヤにも『バク』がいたんだ。


もう分かっただろう。そうだそれが『三浦アイ』だ」


「いや、待て高森。『バク』と俺は一つの身体の中での入れ替わりだった。アヤとアイは別の身体を持っていたんじゃないのか」


「『アヤとアイ』を同時に見た人はいない。つまり、『お前とバク』と一緒なんだ。


お前は記憶を飛ばした時間を意識したが、アヤはそれを意識していない。それだけの違いだ。しかもある一定のリズムで入れ替わっていて、周りも二人の別の人間として認識していた。


それでも元々の身体は一つだった。そのはずだった」


「はずだった?」


「そうだ。そのはずだったんだ。時津風がこのことを知るまではな」


 煙草に火をつけて、高森は話を続けた。


「元々アヤという女は、子供の頃から陰気で影の薄い女だったらしい。


変わったのは高校時代だ。アヤは未来から来た『アイ』に救われた。つまり田平にとっての『バク』だ。


アヤはお前と違って、『アイ』の存在をすぐに受け入れた。『アイ』のアプローチが『バク』ほど分かり辛くなく、オープンだったのかも知れない。


『アイ』のアドバイスでアヤは変わった。元々キュートな顔立ちで、才気もあったのだろう。アッという間にクラスでも中心的な存在になった。


そしてアヤは、それを『アイ』という親友のおかげだと触れ回った。時々『アイ』を友人たちの前に出したりもした。


誰もが、似てる似てると囃し立てた。それはそうだ。同一人物だったんだからな。


この後もしばらくはアヤと『アイ』の蜜月は続いたんだが、時津風との出会いで歯車が狂い始める」


「時津風とアヤは、いつ出会ったんだ?」


「俺も正確には分からないが、お前が『ジャンプ』でバイトしていた頃には既に付き合っていたはずだ。5、6年前になるか」


「アヤの彼氏の話は聞いたことがある。性悪な奴で、アヤが飲み会で泣いてるのを見たんだ。そいつが時津風だったわけだ。


俺がアヤに本格的に惹かれはじめたのは、それがキッカケかも知れない」


「時津風は、何かの拍子に一つの身体の中にアヤと『アイ』がいることに気が付いた。そしてその両方を手に入れた。


正に一心同体だったアヤと『アイ』が、時津風を巡ってライバルになってしまったんだ。二人は苦しんだ。骨肉の争い以上に深刻な状況が続いた。


しかし、時津風はそれを楽しんでいた。アヤを抱いた時にわざと目立つ位置にキスマークを付けて、それを『アイ』に見つけさせたり。


おれは『アイ』と付き合うからもうお前は要らない、とアヤに別れを告げてみたり。そもそも同じ身体だ。二人が入れ替わるタイミングも掴んだ時津風は、やりたい放題だった」


「それが、悲劇を招いた」


「最初の悲劇はあのDVDの通りだ。お前のお蔭で誰も傷つかずに、ああ、お前は傷ついたんだったな。でも、大きなことにならずに済んだ」


「それもどうせ『バク』なんだろう」


「いや、俺はそう思ってないよ。それは田平、お前がやったことだと思ってる。


その部分はお前の記憶が曖昧になっているだけだ。それを俺は『バク』から聞いたんだ。間違いない」




 その時、従業員入口から音がした。松崎オーナーが到着したようだ。

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