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時間を食べるバク  作者: 花咲 潤ノ助、檜慈里 雅(リレー小説)
4/50

4 カラオケルームの攻防 (檜慈里)

 少人数向けの手狭な部屋は、二人の距離を非日常的に接近させる。


 私はさり気なく、肩にかけた鞄と上着を乱雑に、片方のソファーへ置いた。これでアヤは、こちらに並んで座るしかなくなるという算段だ。


「え、隣に座っちゃう感じ?」


「だって対面だと、歌うの恥ずかしいじゃないですか。こっちなら、モニターも見やすいし」


 こういうやり取りまでも、計算のうちだ。


「じゃ、仕方ないなあ。何か頼む?」


 そう言ってアヤも、ハンドバッグを私の荷物があるほうに置く。


 私が投げた上着まで畳んでくれるのは有り難いが、ちょっとその前屈みの格好はよろしくない。胸元から、推定Eカップが零れそうになってしまっている。


「最初に一杯やっちゃいましょ。流石に二人っきりだと、歌い出すのにも気合いが要るんで」


「それ、私が弱いの知ってて言ってる。よね?」


 それは違っている。酒に弱いというのが本当なら、前の飲み会でも早くに潰れていたはず。


 酔っちゃったよお、みたいなのは確実に演技のはずだ。


「モノマネ、本気でやりますから。ここは付き合ってくださいよ」


「んー、もう。そういうとこ上手いね、時雄くんって」


 私の鼓動は、また一段と高鳴った。


 いつもは「田平くん」と名字でしか呼ばないくせに、ここぞという時にファーストネーム。もう駆け引きなんて放り出して、この猛る情動に任せてしまいたくなる。


「あたし、カシオレで」


「了解」


 備え付けの受話器を取り、カシスオレンジとスーパードライを注文。


 さあ、酒が来るまで何を話そうか。




「アヤさんが、サザン好きになった切っ掛けって何でした?」


「パパがサザン、っていうか桑田大好きで、いつも家の車でカセット聴いてたからかな」


 父親か。元彼という予想は外れた、のか?いや、本当のことを言っているとは限らない。


「ねえ時雄くん。ほんとは元彼の趣味だろ、とか思ってない?」


「え?」


 また綺麗に図星を突かれ、変な声が出てしまった。今のは我ながら情けない。


「もー、そんなに昔の話が気になる?あたしがこの前の飲み会で言ってたから?」


「気になってるよ。だって、アヤ、話しながら泣きそうになってたし」


 はっとした表情の後で、アヤは顔を背けた。


「こ、こんな時だけ呼び捨てにするの、ずるいよお」


 ……今、どんな顔をしてる?見たい。


 アヤの肩に手を回そうとした時、突如としてドアは開いた。店員のおじさんだった。


「失礼しまーす、ビールとカシスオレンジでーす」




 グラスをテーブルに置いて、退出する際、おじさんはにやりと笑ったように見えた。


 恥の感情で挙動不審になってしまっていた自分が、余計に恥ずかしかった。




 花咲節に対し、なんとか檜慈里が食らいつく展開。波長を合わせるのに、かなり気をつかってますね。

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