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時間を食べるバク  作者: 花咲 潤ノ助、檜慈里 雅(リレー小説)
33/50

33 明日はどっちだ (花咲)

 「バク」の遺したDVDを見て、一周目に起こったことは概ね想像がついた。


 恐らくは高校を中退したアイは、風俗嬢をやりながらもアヤに固執し続けていたのだろう。「ジャンプ」に潜り込み、常にアヤの行動を監視していたあのDVDにあるような行動から考えると、高森が聞いた子供の話もフェイクの可能性がある。


 アヤと一緒に同じように生きたかったのに、同じようには出来なかった自らの運命を呪い、その呪いの矛先をアヤに向けたのではないだろうか。


 アヤのものを自分のものにするためだけに、風俗で稼いだ金を時津風に貢いだ。高森を客につけたのも私やアヤの情報を聞き出す為の計算だったのかも知れない。


 そして遂にアヤは追い詰められ、自殺した。だがそれは、決してアイの本懐ではなかったのではないだろうか。アイは自分の為に時津風を殺そうとしたのではなく、アイの仇を取ろうとしたのではないか?


「直哉ぁ!バカな女が、あんたを殺してあげる!」


 アイが叫んだ言葉の「バカな女」とは、アイでもありアヤであるとも取れる。その凶刃が一周目の私、つまり「バク」を死に至らしめた。


 中途半端な男の、中途半端な死に方としては最高レベルに当たる死に方だろう。一周目の私はアヤともアイとも、職場の同僚以外の何ものでもなかったのだから。


 一周目のアイと時津風がその後どうなったのかは分からない。私にとっての一周目は「バク」が死んだ2003年4月で終わっているからだ。




 間もなく2003年の5月を迎える二周目では、時津風が死に、そしてアイが自殺した。一周目で死んだアヤも私も、そして高森もまだ生きている。


 この変化のトリガーは「バク」が引いたものだ。新しいパラレルワールドが動き出していた。


 どうして「バク」は時を遡り、人の生死さえも変えるパラレルワールドを作ることを許されたのだろうか?


 いや「バク」の存在そのものが、フェイクの可能性だってある。というか、私一人が騙されているっていうのが、実は一番可能性の高い大本線なのだ。


 だとしたら、それは何の為に?

 

 「バク」はホンモノか、それとも誰かに創られた幻なのか。この二つの可能性を常に頭において考える必要がある。


 もしも一周目と二周目があるのならば、当然、三周目があって不思議はない。飛ぶとしたらそれは自分だろう。「バク」の話が本当ならば、自分が死んだところからジャンプするはずだ。


 もしもそんなものがないのならば、あの食われた時間が何だったのかを解き明かさなければならない。自分の中のもう一人の自分を呼び起こさなければ、この先を歩いて行ける気がしなかった。


 古い漫画の一節が脳裏をよぎる。


「明日はどっちだ」

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