3 初デート (花咲)
約束の土曜日は、すぐにやって来た。
折角アヤと二人きりで出掛けるなら、カラオケだけじゃもったいない。夜景の見えるホテルのバーで一杯、なんて訳にはいかないけれど、海辺のカフェで食事くらいならバチは当たらないだろう。
出掛ける前にシャワーを浴びた。あわよくばという思いがもたげているせいか、ついいつもよりしっかり股間を洗っている自分に気づいて恥ずかしくなる。
アヤもシャワー浴びてくるのかな、なんて思いを巡らせ、あ、まさか勝負パンツ履いて来たりしないよな、などと余計な妄想を広げたりしたものだから、余裕を持って起きたはずが時間ギリギリになってしまった。
「遅いよー」
アヤの第一声。そう言ってちょっと頬を膨らませる。二つ上とは思えない、この仕草。やはりこいつは魔性の女だ。
私服姿は二度目だが、バイト先の見慣れた和装とは違う軽やかな雰囲気はやはり新鮮だ。きれいなレースの飾りの付いたミニのワンピーススタイルは、シンプルだけどとてもよく似合っている。
いつもを知らないから詳しくは分からないが、多分お洒落して来たに違いない。ということは、勝負パンツも、なんて余計なことを考えていると。
「あのさ、勝負パンツなんて履いてないからね」
いきなり図星を付かれて、ハッとした顔をしてしまった。そんなにいやらしい目つきしてたかな?
「なに、なに、まさか本気で考えてたとか?いやらしいなあ。そんなに見たいなら、見せてあげようか?」
ワンピースの裾を掴んでヒラヒラさせる。くっそお、いきなりアヤのペースだ。
「いや、そんな可愛い恰好、初めて見たもんですから、馬子にも衣装だなって思っただけっすよ」
「これね。昨日の帰りに買ったんだよ、君とデートの為にね」
うっ、まだ追い込んでくるか、と思いながら、よしそれならと。
「あ、そうか、今日はデートだったんですね。じゃあ手でも繋いで歩きましょうか」
そう言って、強引に手を握った。
「あっ」と言って俯いて、アヤは急に大人しくなる。
これだ。これも絶対魔性の技だと思いながら、ドギマギしているのはこっちの方。
すぐさま手を離して「じゃあ、行こうか」と、とりあえずカラオケに向かって歩き出す。後ろからついてくるアヤ。
あ、そうか、ここで舌を出してるんじゃないかと思って振り向く。
「なによー」と赤くなった頬を両手で隠すアヤがいた。
軽く眩暈。
この空気で密室のカラオケに行くのはまずいんじゃないかと、意識し始めたが、それを言い出すのはあまりにも無粋だ。
きっとどこかでしっぺ返しされるに違いない、と思いながらも、私は口から飛び出しそうな心臓を飲み込んで、カラオケルームの扉を開けた。
この時点で、主人公の名前すら決まってなかったんですよね。どちらがそこに踏み込むか?作者ふたりで、ジャブの差し合いをやっているところです。