表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時間を食べるバク  作者: 花咲 潤ノ助、檜慈里 雅(リレー小説)
17/50

17 初デートのおのろけトーク (花咲)

 高森から聞いた、私の記憶のない時にアヤが語った初デートの話はこうだ。




 ……その日は何となく最初から二人とも、バイトの時とは違った雰囲気だったのよね。


 そう、どこか浮足立った感じで(つまり緊張していた)、

言葉のキャッチボールもお互いに相手の取り辛いボールをわざと投げてるみたいだったなあ。


 それでとりあえずカラオケに行ったんだけど、そこで飲めないお酒を飲まされてさ(おいおい、それは嘘だろう!)、

ちょっとウトウトしていたら(そうだ、そこで理性のタガが外れかけた途端に終了時間お知らせの電話が来たんだ)、

いきなり時雄が襲ってきたのよね(えええええっ!それはないだろう!)


 それを聞いた時雄は、フフッっと笑ってやり過ごしたという。


 ……まあ、それは言い過ぎよね。高森くんが想像したのとは多分違うから。ホント私ってお酒弱いから、カシオレ半分ですっかり酔っていたわけよ。


 で、まじめに気持ち良かったから、ちょっと時雄に寄り掛かってウトウトって感じ。


 最初は時雄の鼻息が荒くて、これもしかして襲われかもって本気で覚悟したんだけど(そこまでは間違いなく俺だな、ってか覚悟してたんだ)、


そしたらすっと空気が変わって、凄く落ち着いた雰囲気になったのよ。


 カラオケの番組が変わったのかも知れないし、時雄が音量を絞ったのかも知れないんだけど、本当に急に静かで優しい空気が部屋の中に充満して、気が付いたら髪の毛を撫でられてた。


 これがね。心の音が聞こえたみたいにキュンとしたのよ。生まれてから今までで、一番キュンとしたんだよね……




「『おのろけかよ』って言ったんだけど、『高森くんが馴れ初め教えろって言うから話してるんだから、最後まで聞きなよ』って言うんだ。


その時のアヤの目、多分半分いってたかも」


 ……それから、うなじを撫でられて、ほんのちょっとだけど耳に指が触れた時は、思わず声が出ちゃうと思うくらいゾクゾクッとしたのよ。


 ねえ時雄、私、声出てなかったよね?……


 アヤから確認を振られた時雄は、相変わらずクールに笑っているだけだったそうだ。


 あれ?こいつってこんなにクールだったかなと、多少違和感を覚えたらしいが、むしろアヤの興奮の方に気を取られていたのでそれ以上に気にすることはなかったらしい。


 ……時雄のタッチがさ、触ってないのに指先の波動みたいなのが伝わる感じで、私、耳がこんなに気持ちいいって、その時初めて思い知ったんだよね。


 一応寝たふりしてたから、とにかく声を出さないように抑えるのが大変で、結構汗かいてたよね……


 確かにあの時、アヤは汗をかいていた。「寝てたら汗かいちゃった。えへへ」と笑った顔も上気していた。


 私の方は飛んでしまった1時間に冷や汗をかいていて、それどころではなかった。




 あの日のカラオケの後、アヤからの距離感が縮まって、たちまち男と女の関係に進んだのも、空白の1時間のお蔭だったってわけか。


 どんなに素晴らしい結果も、自分が関与していない、いわゆる棚ボタだと種明かしされてしまうと、残るのは虚しさだけだ。


 今またアヤとよりを戻したと言うが、それも自分が何かをして戻ったものじゃない。


 こんな状態で、私はこの先もアヤと付き合っていくべきなのかどうか、葛藤していた。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ