15 ポテンシャル (花咲)
高森の話で、2年前の謎は概ね解けた。次は、私に記憶ない間に起こった3つの出来事についてだ。
ひとつ目は、アヤとの復縁。これは私が高森からアヤの居場所を聞き出し、自分が勤めることになった「タイムオフ」で一緒に働こうと説得。
その時の口説き文句が「もし、自分が『タイムオフ』の店長になったら、もう一度付き合ってくれ」だったという。
「それを俺が言ったと」
「ああ、アヤさんの隣で聞かされた」
「それでアヤは?」
「分かったって。でもそんなに長い時間は待てないよ、って言ってたな。そしたらお前、当たり前だみたいなことを言って……
そうそう。確か、そんな時間はない、って言ってたよ」
「そんな時間はない、か。それが2年間も俺の時間を奪ったやつの言葉だとしたら、その時はまさか2年も引っ張るとは思っていなかったのかも知れないな。
で、そいつはどのくらいで店長になったんだ」
「3ケ月だ」
「は?3ケ月?いや待てよ、確か『タイムオフ』の初代店長って佐藤さんだったよな?松崎さんの後継者候補と言われてた、あのドリル佐藤?」
「そうだよ。佐藤店長だ。その佐藤さんをアッという間に『タイムオフ』から追い出したのがお前だったんだよ、田平」
「わからないな、その話。俺にはリサイクルショップの経験もなければ、店舗経営にも残念ながら興味すらない。
潰した話には納得出来ても、あの佐藤さんを追い出して店長にのし上がるなんて想像もつかない。しかもその期間が3ケ月というのは、さすがにあり得ないだろう」
「そりゃみんな驚いたさ。だけどな俺が直接見てたわけじゃないから具体的な話は出来ないが、開店までの1ケ月、そして開店後の2ケ月のお前の活躍と言ったら半端じゃなかったらしい。
田平は寝ていない、というのが評判になっていたそうだ」
「俺が……?」
「そう、お前がだ。でもな、田平。憶えていないか?大学時代にアイドルグループの『トラフォーマ』を学祭に呼んだ時のこと」
「『トラフォーマ』なら憶えてるさ。出演が決まったらアイリと直で話せると思って、気合い入ったなあれは」
「そうそう。絶対無理だって何回断られたか。普通の学生は大抵一度で引き下がるのに、田平は何回断られても少しも動じてなかったもんな」
「そりゃそうだ、『トラフォーマ』にしかアイリはいないんだからな」
「そして、一晩で仕上げたキセキの企画書も凄かったが、あのプレゼンテーションの迫力は、今でも震えが来るくらいさ。
田平のポテンシャルは絶対に凄いはずなのに、就活は全滅、アヤさんとも中途半端、『タイムオフ』に正社員登用されるまでのお前は、俺の中ではかなりガッカリだったんだぜ」
当時の私は、やりたいことを全く見出せていなかった。
アヤのことも本当に好きなのかの自信がなかった。というか、アヤの気持ちも伝わってこなかった。
私を見詰めているはずなのに、何故か違う誰かを見ているような、そんな気がしていた。