14 風俗嬢のアヤ (檜慈里)
あの時アヤは、何故いなくなったのか?
「俺がお前とアヤさんから聞いた範囲で答えるけど、まずは前提だ。お前の職場に『三浦』姓って、当時3人くらい在籍してたんだよな?」
「ああ、そうだよ。実際、アヤが出会った当初から下の名前で呼べって言ってきたのは、それが理由だった」
そうだった。しかも、私が大学在籍中、半年くらいだけ同僚だった「三浦さん」という地味な印象の女性とアヤは、どうも仲が良くなかったらしい。
「お前らが付き合い始めた頃、その別の「三浦」って女もお前のことが好きだったみたいで、その女が『田平と付き合ってるのは私』って匂わせるような話題を裏で吹聴しまくってた。とのことだ」
「あ、あの三浦さんが?おいおい。俺、仕事の話以外した記憶ほぼ無いぜ」
「根暗な女ほど、やばいこと考えてる可能性は高いからな。まあこれは俺の経験上だけど」
そうなると、アヤは、あの時。
「当然、その嘘っぱちの噂はアヤさんの耳にも届いた。お前を信じられなくなったアヤさんは、直接確かめる勇気も出せないまま、『ジャンプ』を辞めちまったんだ」
「くそ!あの地味女、腐ってやがる。俺があの時、どれだけ苦しんだと思ってんだ!」
「まあ落ち着け。現にお前ら二人は今、よりを戻せてるんだからな。続きを聞けよ」
いや、高森に対しても嫌疑はあるんだ。私は怒りの勢いに任せ、高森を詰った。
「お前もだ!なんでアヤと、こそこそ会ってやがった!?」
「く……あっはっはっ」
高森は急に笑いだした。それを見て私も、少し拍子抜けてしまう。
「なんで俺、お前に同じことで2回も怒られてんだろな!はっはは」
「そうだった。それに関しては、ごめんなさいだ。すまん。何か理由があったんだな?」
「そうだよ。そもそも俺は、あの自棄になりかけてた大学時代に出会った風俗嬢のアヤと、お前の彼女のアヤさんが同一人物なんじゃないか?と考えてて、会わせろってしつこく言ったんだよ。
特徴が一致してただろ?それは覚えてるんだよな?」
「ああ、当然覚えてる。就職する前の話だし」
「その風俗嬢のアヤと、アヤさんは、知り合いだったんだよ。それも同級生」
「はぁ!?お前、それ本気で言ってんの?」
「本気に決まってるだろ。何度も言わせやがって。高校2年の時、
二人はクラスメイトでさ。周りからも似てるって言われてたらしい。
それが面白くて、髪型なんかもわざと似せたりするくらい仲良しだったってさ」
そう言えばそんな写真、アヤの携帯で見せてもらった記憶がある。
「ただ風俗のアヤのほうは、妊娠して高校を辞めてから、子育てには金が必要って気付いた。それで、まあそういう道を選んだんだと。源氏名がアヤだったのも、アヤさんからとったらしい」