13 記憶の向こうのパズル (花咲)
この場で手探りをしながらアヤと話をするのは危険と判断した私は、高森を引きずって逃げるようにその場を後にした。
私の空白の2年を断片的にでも知っている高森から、少なくとも今のアヤと私の関係を確認した上でないと、何か大きな間違いを犯してしまいそうな気がする。
「頼む、高森。この2年間の俺のことを、知っている限り教えてくれ」
「そう来ると思ったよ。まさかあんなところでアヤさんに会うと思ってなかったしな。田平もまだ病院から出て間もないし、記憶のない間のことを色々聞けるような余裕ないと思ってたからさ。
ま、でもこうなったら仕方ないよな。俺の知ってる範囲だから、あんまり期待するなよ」
「ああ、分かってる」
私は高森の話をメモを取りながら真剣に聞いた。こいつの話をこんなに一生懸命に聞いたのは、残念ながら記憶がない(記憶のない私が言っても信憑性が薄いが)。
自分のことであるはずなのに、高森の話の中の自分は、まるで自分とは思えない行動をしていた。
「なあ、高森、その話ってホントか?お前その時、何かおかしいとか思わなかったか?」
一通りの話を聞き終えて、大きな違和感に苛まれた私は、高森の感想を聞いてみる。
「おかしいかあ。むしろ俺は2年前、就職浪人でアルバイト生活をしているお前の方にイライラしていたくらいだからな。田平ならこのくらいのことは当然と思っていたけどな」
高森が話してくれたこの2年間の私の話は、大きく3つあった。
ひとつはアヤと私が再会した時の話、次に「タイムオフ」で私が店長に登用された時の話、最後にその「タイムオフ」が閉店に追い込まれた時の話だ。
高森が知っている私の話は、アヤから聞いた話がメインだった。つまり、私の記憶にある、3人で飲んだ時以降、高森とアヤは時々会っていたのだ。
それはアヤが「ジャンプ」を辞めて私との連絡が途絶えた以降もだ。
「あの時の田平の勢いにはホントに参ったよ。アヤと会っているだろう?って俺に掴みかかってくるんだからな。だから俺も言ったんだ。そんなに好きなんだったら、どうして追いかけなかったんだよって、さ。
いいから居場所を教えろって、アヤさんからは、もし田平がまかり間違ってそんなことを言い出しても住所とか教えないでって言われてたんだけど、勢い負けしたんだ。そういう意味じゃ、お前のキャラとは違っていたかもな。
でも、元々お前の気持ちは知ってたからさ。アヤさんを全然諦めきれてないって。……でもな田平。それはアヤさんも同じだったんだよ」
「アヤも同じだったって?」
「そうさ、突然『ジャンプ』を辞めたら、お前が心配して探しに来てくれるんじゃないかって、な。ま、結果的には、記憶のない田平のお陰で、その通りになったんだけどな」