11 アヤとの再会 (花咲)
「ワンピース」を探しながら、元「タイムオフ」の店舗の中を探検していると、売れ筋ではないものの、私たちには懐かしいコミックスが次々に見つかった。
これを思わず手に取ってしまったのが運の尽き、しばしノスタルジックな時間を過ごしてしまった。
突然、ガタガタと従業員の控室の方から音がした。
国道を行き交う車の音もそれなりに賑やかだったが、逆にそれ以外に音のないだだっ広い空き店舗である。控室の音は、店内のどこにいてもしっかり聞こえた。
私も高森も「こりゃヤバイ」と身を隠す。片付けられていないリサイクルショップというのは、身を隠すのには適した環境だった。
例の垂れ幕をめくって、男と女が店内に入ってくる。男は「ジャンプ」オーナーの松崎さんだった。
私も何度か会ったことがあった。パチンコ店も経営しているお金持ちなので、会う前はギラギラした成金をイメージしていたのだが、スマートでソフトな対応に思い切り予想を裏切られたのを憶えている。
既に年齢は50歳を過ぎていると思うが、相変わらずお洒落でカッコいい。
隣に連れている女の顔が見えた。
私は思わず声が出そうなくらい驚いた。口を押えて何とか気づかれずにすんだものの、心臓をズキュと打たれたような衝撃を受けた。
女は学生時代に「ジャンプ」で一緒に働いていたアヤだった。短い期間だったが、付きあったこともある。二回目に時間が食われたと感じた時も、アヤとのデートの最中だった。
そのアヤが、オーナーと一緒にいる?
ふたつ年上だったから、今は27歳か。全然変わってないな、あの頃と。
不法侵入中で身を隠している状況にも関わらず、私の視線はアヤを追いかけていた。
「ああっ、あ、アヤさん?」
まさかの大声。高森だ。
私がアヤと付き合っていた頃に、どうしても一度会わせろと聞かなかったので、3人で飲みに行ったことがある。
私も高森が話していたアヤという名のソープ嬢の容姿やスタイルが、アヤのそれに嵌っていたことが気になっていたので、確かめたい気持ちもあったからだ。
結果的には、高森もアヤも全くの初対面ということで、その時に疑うようなところはなかった。
だが、その後で高森が少なくとも一度、アヤと会ったであろうことを、私は知ってしまった。
楽しい飲み会だったので、単に気が合ったからなのかも知れない。
だが、もしかしたら高森の言っていたソープ嬢のアヤと、私の恋人のアヤが同一人物で、高森もアヤもそれを私に気づかれないようにその場をやり過ごし、日を改めて二人で会ったのかも知れなかった。
その疑惑は、当時の私を苦しめた。
しかし、それから少ししてアヤは「ジャンプ」を辞めてしまい、高森とのことを確かめる間もなく、私たちの関係自体が終わった。
3年次の期末試験の出来が最悪で、補習やらレポートの再提出で多忙を極め、数日「ジャンプ」のシフトを飛ばした休み明けに、アヤが「ジャンプ」を辞めたことを課長から聞いた。
「知らなかったのか?お前ら付き合ってるのかと思ってたよ」
課長の言葉に、私は「いえ、そんなことないです」と答えた。3月なのに、妙に寒い日だったことを良く憶えている。
それきりアヤとは会っていない。
そのアヤがいまここに、恐らくはオーナーの愛人(?)として私たちの前に姿を現した。
それに驚いた高森が、あろうことか大声を出してしまった、という局面だ。私でさえ我慢したのに。今更だが、やっぱり何かあったなあの二人。
それはともかく、私は今、ここから出るべきか?出ざるべきか?それが最大の問題だった。