表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時間を食べるバク  作者: 花咲 潤ノ助、檜慈里 雅(リレー小説)
11/50

11 アヤとの再会 (花咲)

「ワンピース」を探しながら、元「タイムオフ」の店舗の中を探検していると、売れ筋ではないものの、私たちには懐かしいコミックスが次々に見つかった。


 これを思わず手に取ってしまったのが運の尽き、しばしノスタルジックな時間を過ごしてしまった。




 突然、ガタガタと従業員の控室の方から音がした。


 国道を行き交う車の音もそれなりに賑やかだったが、逆にそれ以外に音のないだだっ広い空き店舗である。控室の音は、店内のどこにいてもしっかり聞こえた。


 私も高森も「こりゃヤバイ」と身を隠す。片付けられていないリサイクルショップというのは、身を隠すのには適した環境だった。


 例の垂れ幕をめくって、男と女が店内に入ってくる。男は「ジャンプ」オーナーの松崎さんだった。


 私も何度か会ったことがあった。パチンコ店も経営しているお金持ちなので、会う前はギラギラした成金をイメージしていたのだが、スマートでソフトな対応に思い切り予想を裏切られたのを憶えている。


 既に年齢は50歳を過ぎていると思うが、相変わらずお洒落でカッコいい。


 隣に連れている女の顔が見えた。


 私は思わず声が出そうなくらい驚いた。口を押えて何とか気づかれずにすんだものの、心臓をズキュと打たれたような衝撃を受けた。


 女は学生時代に「ジャンプ」で一緒に働いていたアヤだった。短い期間だったが、付きあったこともある。二回目に時間が食われたと感じた時も、アヤとのデートの最中だった。


 そのアヤが、オーナーと一緒にいる?


 ふたつ年上だったから、今は27歳か。全然変わってないな、あの頃と。


 不法侵入中で身を隠している状況にも関わらず、私の視線はアヤを追いかけていた。


「ああっ、あ、アヤさん?」


 まさかの大声。高森だ。




 私がアヤと付き合っていた頃に、どうしても一度会わせろと聞かなかったので、3人で飲みに行ったことがある。


 私も高森が話していたアヤという名のソープ嬢の容姿やスタイルが、アヤのそれに嵌っていたことが気になっていたので、確かめたい気持ちもあったからだ。


 結果的には、高森もアヤも全くの初対面ということで、その時に疑うようなところはなかった。


 だが、その後で高森が少なくとも一度、アヤと会ったであろうことを、私は知ってしまった。


 楽しい飲み会だったので、単に気が合ったからなのかも知れない。


 だが、もしかしたら高森の言っていたソープ嬢のアヤと、私の恋人のアヤが同一人物で、高森もアヤもそれを私に気づかれないようにその場をやり過ごし、日を改めて二人で会ったのかも知れなかった。


 その疑惑は、当時の私を苦しめた。


 しかし、それから少ししてアヤは「ジャンプ」を辞めてしまい、高森とのことを確かめる間もなく、私たちの関係自体が終わった。


 3年次の期末試験の出来が最悪で、補習やらレポートの再提出で多忙を極め、数日「ジャンプ」のシフトを飛ばした休み明けに、アヤが「ジャンプ」を辞めたことを課長から聞いた。


「知らなかったのか?お前ら付き合ってるのかと思ってたよ」


 課長の言葉に、私は「いえ、そんなことないです」と答えた。3月なのに、妙に寒い日だったことを良く憶えている。


 それきりアヤとは会っていない。




 そのアヤがいまここに、恐らくはオーナーの愛人(?)として私たちの前に姿を現した。


 それに驚いた高森が、あろうことか大声を出してしまった、という局面だ。私でさえ我慢したのに。今更だが、やっぱり何かあったなあの二人。


 それはともかく、私は今、ここから出るべきか?出ざるべきか?それが最大の問題だった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ