表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
時間を食べるバク  作者: 花咲 潤ノ助、檜慈里 雅(リレー小説)
10/50

10 ワンピースとDVD (檜慈里)

 狭い通路の脇に古い本や衣類、ゴルフクラブ、ダンボール箱、ジグソーパズル等々が置かれている。まだその大方は営業していた時のままのようだった。




 私と高森は目と顎で合図、スタッフルームと思われる小部屋の横を通って目隠しの垂れ幕をくぐり、売場へ向かった。


 店内は薄暗く、しかし外からの太陽光が強いおかげで一応見渡せる。車での来客を狙い、駅からやや離れた国道沿いの土地を確保していただけあって、「タイムオフ」は広大だった。


「広いな」


「いや田平お前、ついこの間まで勤務してたんだろ。俺だって何回も来たことあるぞ。まったく覚えてないのか?」


「この建物に入ろうとしたところで、俺の記憶は途切れてる。次に気がついた時には今のアパートで寝てたんだ。あそこにも、お前が来たことあったんだよな?」


 高森は答えず、売場を見渡す。


「ちょっと本格的に大ごとだっていう気がしてきたよ。


つまりあれだ、もし俺と田平時雄の初対面がこの2年間のうちの出来事だったとしたら、俺はお前の記憶に存在すらしてない。っていうことなんだな」


「そうなるな。実際、『ジャンプ』の面子に知らないのが何人かいたし。他にも、向こうは知ってる体で話しかけてくるから困ったってことは、既に何度もあったし」




 私と高森は店内をぶらぶら歩き始めた。壁際の、背の高い本棚に並ぶ古い漫画。所々すっぽり抜け落ちているから、どうも金になりそうなものだけ持って行ったんだろう。


「おい高森。そう言えば学生の時分、『ワンピース』って新連載の漫画あったよな?あれ、どうなった?」


「『少年ジャンプ』のやつ?今も連載してるよ」


「マジ?じゃあ俺、抜け落ちてる2年分も一気に楽しめるってことか!」


「まだ全然、完結する気配もないけどな」


「この売場にワンピース、置いてないか」


「あれ、かなりの人気だぞ?とっくに誰かが持って行っちまってると予想するね。賭けてもいい」


「よし、俺は1冊くらい置いてあるほうに1000円だ」


「乗った!しかしそれだと、見つかったら俺の負けだからな。俺のほうは何か、使えそうなエロDVDでも探してくる」


 DVD。その言葉に俺は、何か引っかかる。


「それってたしか、CDみたいな形のやつだろ?あんなの、アダルト業界が参入するほど普及してるのか?」


「無論だ。エロこそ画質が重要ってんで、近年爆発的にシェアを占めてきてる。再生するほど劣化していくVHSに、とって変わる日も近いと俺は踏んでいる」




 ビデオテープが無くなるなんて、当時は信じられなかった。今になって思い返せば、高森に先見の明があったと言えるだろう。


 私も賭けた手前『ワンピース』を探し始めた。そんな他愛ない作業のなかに、何かを見つけられるような気もしていたからだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ