1 初飛び (花咲)
この作品は、Twitterのやりとりの中で生まれました。
檜慈里の「時間を食べるバク」という題の小説をお互い書いてみてはどうか?という案に、花咲氏が「リレー小説」の形を思いついたことで始まります。
奇数話は花咲潤ノ助氏、偶数話は檜慈里雅が担当しています。一話あたり1000字を目安に、作者交代します。
「私が言っていることはおかしいのでしょうか。それならそうと、はっきり言ってください」
……私がこの話をするのは、これで一体何度目になるだろうか。みんな全然分かっていない。
こうしている間にも、得体の知れない魔物に、私たちの時間が食べられているということを。
私が最初にそれに気づいたのは、もう20年前のことになる。
その日、私は友人の家でPCゲームに興じていた。
私たちはこの時、正に就活の真っ最中だった。二つ上の先輩からは、就活なんて適当にやってれば内定なんて取り放題、内定者全員でグアムに行った話や、豪華なホテルでの顎足付のパーティの話ばかり聞いていた。
就活なんてそんなものなんだ、と高を括っていた。それが湾岸戦争そしてバブル崩壊を経て、時代が変わる。
一こ上の先輩の苦渋の就活を間近に見て、我らが三流大学の実力を痛感し、同じ轍は踏むまいと早々に始めた会社訪問だったが、既にその数が30社を超えたにも関わらず、未だに内定はなく、それどころか一次選考通過の知らせさえない。
もういい加減嫌になった、と天を仰いでいた駅で、同じくスーツを着こんだこの家の主・高森とバッタリ会った。
同じ境遇。同類相憐れむ酒をあおり、ここになだれ込んだという次第だ。
時間は深夜2時。酔ってもいたし、多少の眠気もあった。
しかし私は腕時間の針が30分一気に動くのを、間違いなく目撃した。
慌てて「あれ、高森、今何時?」と聞くと、
「ああっ?時計見ながら聞くなよ、2時半」と高森が答える。
「いや、ついさっき2時だったよね?
今、俺の時計の針が30分一気に動いたんだけど、何でお前の時計も2時半なんだよ」
「何言ってんの。ああ、さてはお前、落ちてたな?」
「違う違う、だって、俺見たんだよ。時計の針がグググって30分動くのを」
電波時計が実用化される以前の話。腕時計が手動以外でグググと動くなんてことはなかった。
しかし、それはお前が知らない内に眠っていたのだよ、と高森に再三諭されて、そうだったのかも知れないなと、その時はそれで納得するよりなかった。
それから暫く、訪問先をひとつふたつと潰しながら、相変わらずまったく手応えのない日々を送った。
あの時は高森の手前納得したことにはしたものの、自分自身合点がいったというわけではなく、気になって腕時計を頻繁に見てはいた。
しかし、あれ以来グググと動くようなこともなく、すっかり忘れかけていた2週間後。
時は、突然動いた。
ほぼ何の打ち合わせもなくリレーしていっておりますので、多少の設定矛盾やキャラクターのブレはあるか……と思います。(出ないように頑張ってますが!)
それもリレー小説の楽しさとして、お読みいただければ幸いです!!