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メビウスリング  作者: 楓海
7/11

ピクニック

 グロい表現あります。


「倖広!

 そっち行った! 」


「え?

 なに? 」


 理舞は丸めた新聞を振り回し、血相を変えて叫んだ。


「足元、足元! 」


 倖広は自分の足元を見た。


 黒く小さな楕円(だえん)の個体がカサカサと倖広の足元を通過した。


「あ、逃げちゃう!

 ゴキちゃん逃げちゃう! 」


「ゴキちゃん? 」


 理舞は倖広の傍まで行くとスリッパを倖広に握らせた。


「いい?

 (はさ)み撃ちするからね」


「なんだあ、ゴキブリかあ」


「なんだあ、じゃ無いでしょ

 あんなのうろうろしてたら気持ち悪いでしょ」


 倖広は肩を(すく)め、溜め息をつくと急に駆け出し裸足の足であっと云う間にゴキブリを踏み(つぶ)した。


 理舞は叫んだ。


「きゃああ!

 裸足で踏み潰したあ! 」


 理舞がティシューを何枚も取って倖広の足を持ち上げると、倖広はバランスを崩し、ひっくり返って手をついた。


「何するの! 」


「気持ち悪く無いのお?

 わあ、ぐっちゃり………………」


 理舞の口がへの字に(ゆが)んでいる。


 理舞は倖広の足の裏を拭いてからゴキブリの死骸をティシューでくるんだ。


「お風呂で足、洗った方がいいよ」


「いいよ、面倒くさい」


「その足で家中歩き回られたらヤダよお

 ゴキちゃんの怨念が床のあちこちに…………………」


 理舞は(あお)くなって手を合わせた。


 倖広は溜め息をつくと立ち上がってケンケンで風呂場に行った。


 理舞も洗面所で嫌と云うほど手を洗った。


 足を洗いながら倖広は手を洗う理舞に訊いた。


「さっきから何、真剣に作ってるの? 」


 理舞はタオルで手を拭きながら言った。


「ポテトサラダのサンドウィッチと、トマトとレタスのサンドウィッチと、ツナのサンドウィッチと、茹で玉子のサンドウィッチ」


 倖広は眼を丸くした。


「そんなに沢山サンドウィッチ作ってどうするの? 」


 理舞は満面の笑顔で言った。


「今日は仕事休みだから、ピクニック」


 倖広は(いぶか)し気に片眉(かたまゆ)をあげた。


「誰と? 」


勿論(もちろん)、倖広だよ」


 倖広は深い溜め息をついた。


「オレはヤダよ、面倒くさい

 家でのんびりしてる方がいい」


「ええ!

 行こうよ、ピクニックぅ」


「ヤダ」


 倖広はタオルで足を拭くと風呂場を出た。


 理舞は腰に手を当て溜め息をついて、キッチンに戻りサンドウィッチ作りを続けた。


 水筒に麦茶を入れ、ウェットティシューに敷物、紙皿と紙コップ、スナック菓子などをバッグに詰め込むと腕捲(うでまく)りをして、ソファーに寝転がる倖広の前に立って腰に手を当てた。


「行くよ、ピクニック」


 倖広は腕枕をして眼を閉じたまま言った。


「ヤーダ」


「ダメ、行くの! 」


 理舞は倖広の腕を(つか)んで引っ張った。


 行くまいと身体を強張(こわば)らせている倖広は床に落ちて理舞に引き()られた。


「毎日、そんなゴロゴロしてたら亀になっちゃうよ

 行くよ、ピクニックぅ」


 倖広は深い溜め息をつくと観念して立ち上がった。


「解ったよ

 行けばいいんだろ、行けばあ」


 倖広は着替えるとサンドウィッチや水筒の入った大きなバッグを持たされた。


 タクシーで街外れの山道を途中で降りた。


「ここからは歩きだよ」


 理舞は大きな(つば)の白い帽子を押さえ、倖広を振り返ると笑って言った。


 舗装された道路の横に土が()き出しの小道が伸びている。


 倖広を置いて理舞は足場の悪い小道を登って行くが、途中から、小道から外れた草原を歩き始めると、最初の勢いは何処へやら、倖広に手を引かれて歩いた。


「ここがいい」


 そう言って理舞が立ち止まった場所は遠くに街が見渡せ、一段低い牧草地に放牧の羊がのんびり草を食べる様子が見える場所だった。


 心地いい風がざわざわと草木を歌わせ、クローバーや朝鮮タンポポのピンクや白、黄色が広大な緑にアクセントを()えている。


 二人は草を踏み潰しビニールシートを敷いた。


 倖広はシートに寝転がり、理舞はそこいら辺を歩き回った。


 倖広がうつらうつらと眠っていると、倖広の顔にひんやりとした柔らかな感触が降って来た。


 理舞が降らせた白いクローバーの花だった。


 倖広が起き上がると理舞は倖広の前に座って言った。


「怠け者

 ワタシが魔法で、怠け者を王子様にしてあげる

 ビビデバビデブー」


 理舞は背中に隠していたクローバーの花冠(はなかんむり)を出すと倖広の頭に載せた。


 倖広は笑うと手をついて身を乗り出し、お礼に理舞に口づけた。


 理舞は倖せそうに笑った。


 二人はお昼に、朝早くから理舞が作ったサンドウィッチを食べた後、シートに並んで寝転がり、高い空に貼り付いた羊雲がゆっくりと流れて行くのを眺めた。


「あ、そうだ」


 理舞は起き上がるとバッグからビニール袋の包みを取り出した。


「なにそれ? 」


 倖広も起き上がった。


 包みを開くと小さなピンクのシャベルが出て来た。


「倖広、穴掘ってくれる? 」


「何で? 」


「今朝のゴキちゃんを土に埋めてあげるの

 ちゃんとお墓作ってあげなくちゃ」


「持って来たの! 」


「うん」


 理舞は笑った。


「ただのゴキブリだろ」


「一寸の虫にも五分の魂って言うでしょ」


「なに、それ……………………」


「嫌なの? 」


「嫌だよ、ゴキブリの為に何でそんな労力使わなきゃなんないのさ」


「いいよ、じゃあワタシが掘る」


 理舞は適当な場所に(かが)んで、シャベルで地面を突っつき始めたが、地面は硬く枯れ草が幾重にも折り重なって全くはか行かなかった。


 見兼ねた倖広が理舞のシャベルを取り上げて地面を突き刺し始めた。


「だいたい土掘るのに、こんな小さなシャベルで掘ろうなんて云うのが甘いんだよ」


 理舞は、そう言いながらも土を掘る倖広を頼もしく思いながら見詰めた。


 掘り進んで行く内に、倖広にフラッシュバックが襲った。


 それは何人かの子供がスコップで地面を掘っていて、その傍に犬や猫の死骸が転がっているのだ。


 腐臭が鼻を突いた。


 死骸には(うじ)(うごめ)いている。


 次に女の悲鳴が倖広の頭の中で(とどろ)いた。


 倖広は土を掘る手を止め、顔に手を当てた。


「どうしたの? 」


「なんでも無い」


 倖広はまた土を掘り始めた。


 フラッシュバックはまた起こった。


 女が眼を剥いて裸で死んでいる。


 女の身体は間欠的に揺れていた。


 倖広は思わず地面に手をついた。


「倖広………………? 」


「ごめん、気分が悪い

 後は自分でやって」


「サンドウィッチが(あた)ったのかなあ」


 理舞は心配そうに倖広の顔を覗き込んだ。


「……………見ないでくれるかな」


 そう言って理舞を見た倖広の眼は()るように鋭く、理舞は身がすくんだ。


 帰りのタクシーの中で倖広は黙りこくっていた。


 頬杖をつき、流れる街並みをただ黙って眺めている。


 理舞はその倖広の横顔が、少し恐い気がした。




 読んで下さり有り難うございます!

 いつもより大幅に更新する時間が遅くなりました。

 夕べ具合か悪くなり打ち込むことできませんでした。

 ご迷惑お掛けしました。 

 

 

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