命名
楽しんで読んで戴けたら嬉しいです!
男が眼を覚ますと、夜が明け薄いカーテンの隙間からぼんやりとした光が射していた。
寄り添い横たわる理舞に振り向いた。
理舞はじっと男の顔を見詰め、眼が合うと優しく笑って言った。
「良かったね
熱下がったよ」
理舞は起き上がりベッドから出ると大きく伸びをした。
逆光に浮き上がる全裸の理舞の背中から尻にかけた造形が、男には一枚の絵を見る様に美しく映った。
理舞は振り返ると言った。
「お腹空いたよね
今、ご飯作るからね」
男はその言葉に安らぎを感じて理舞に手を伸ばした。
理舞の手は確かに握る事ができて、その柔らかな感触は男をひどく安堵させた。
振り返った理舞は優しく笑った。
理舞は服を着るとカーテンを開けた。
「わあ、昨日の雨が嘘みたい」
振り返り光に照らされた理舞の笑顔は美しく、男は眼をしばつかせた。
理舞が寝室を出ると、男は何かを思い出そうと試みたが、思い出せるのは夕べ抱いた理舞の暖かな感触と深い安らぎだけだった。
洗面所の鏡の前に立ち、自分の顔を見詰めた。
『オレは誰なんだ? 』
鏡に映る男は少し鋭い目付きでこちらを見ている。
『こいつは誰なんだ? 』
男がリビングに行くと、みそ汁のいい匂いがして、理舞の軽やかな鼻歌が聞こえていた。
キッチンを覗くと理舞は軽快な音を立て漬物を切っている。
男に気付いて振り返った理舞は言った。
「何か思い出せた? 」
男は首を振った。
「何も…………………」
「そっかあ」
理舞は残念そうな顔をした。
二人はキッチンのカウンターに並んで朝ごはんを食べた。
「ねえ、ワタシって凄くない?
玉子焼き、こーんなキレイに巻けるんだよ
キャベツだってえ、こんな細く切れるし
お味噌汁だって、ちゃんと煮干しと昆布からおダシ取ったんだからあ」
男は不思議そうに理舞を見た。
「それって凄い事なんだ」
「そうそう。
だから褒めて、褒めて」
そう言って理舞は笑った。
理舞はご飯を食べながら、仕事や同僚の話をしてコロコロとよく笑う
男はそんな理舞を見て、心から和んだ。
朝ごはんを食べ終わると白いテーブルの前に座り、理舞は黒いマジックを駆使して何かを真剣な顔で描いていた。
男はソファーに座りテレビを観ていた。
理舞は突然顔を上げて言った。
「じゃあーん」
見ると「命名、倖広」と黒文字で太く書かれた白い用紙を顔の横に掲げて理舞は笑っていた。
「何、それ…………………」
男は頬杖をついて言った。
「あなたの名前よお
呼ぶ時、凄く困るもん」
男は黙って紙を見詰めた。
「道路に落ちてるなんて、とても倖せそうじゃ無さそうだから、倖せが広がります様にって……………倖広
取り敢えず警察で身元が判明するまで、あなたは倖広」
倖広の表情が変わった。
「警察って? 」
「家族が心配して捜索願い出してるかもしれないでしょ」
倖広は眉間に皺を寄せた。
「警察はヤダ! 」
「ヤダって、どうして? 」
「どうしても!
ウルトラハイパー超絶すんげえイヤだ
自分で探せる」
理舞は溜め息をついた。
「すんごい、我が儘」
「イヤなものはイヤなんだ
オレを拾った時、多少は覚悟してたんだろ!
最後まで面倒見てよ! 」
理舞はムカついて言った。
「居候の癖に態度デカッ! 」
「とにかく警察は嫌なんだ
それに…………………」
倖広は上目遣いで理舞を見詰め言った。
「理舞みたいな綺麗なお姉さまと、ずっと一緒に居たいな」
理舞の機嫌はその一言で、たちまち治った。
「任せなさーい!
うちの店で指名率ナンバーワンの理舞お姉さまが養ってあ・げ・る! 」
『ちょろっ……………』
倖広は後ろを向いて舌を出した。
読んで下さり有り難うございます!
昨日は沢山の方達に覗いて貰って凄く嬉しかったです。
何が原因か解らなくて困惑してますが。笑
最後まで楽しんで戴けたら嬉しいです。